あちらから近づいて来た癖に、季節をひとつ跨ぐ頃には別れろだなんて

随分勝手な言い草だ。

取り縋って泣いたりはしない、平然と別れを受け入れた後彼の去った自室で煙草を一本点けた。

吸い終わるまでの5分で、元彼が如何に嫌な奴だったかを反芻し

灰皿に押し付けると佐川を呼び出した。

なまえの家からそう遠くない、小路のスナックへの呼び出し方は一言で

徒歩数分の距離を歩きながら、よくもまぁ、彼もいつも付き合ってくれるものだと思う。



「どぉぉおーして上手くいかないのかなぁー??」



芋焼酎のお湯割りを置いたカウンターに突っ伏してなまえが声を張り上げる。

男に振られたら佐川を呼び出し、馴染みの店で浴びる様に呑む。

こうなるとマスターは早々に看板を下げるのだ。



「今度は上手く行くって、思ったのになぁ…。」



カウンターに頬っぺたをくっつけたまま、なまえが涙声で呟く。

佐川は日本酒を燗でやりながら、エイヒレなんかをつまんでいる。



「フラれたモンはしょうがねぇだろ。」

「しょうがねぇで済んじゃ、警察要らないのよ。」



ぶちぶちと文句を零しながら焼酎をちびりとやる。

彼氏とは長くても3ヶ月しか続かないのに比べ、佐川とはもう数年来の飲み友達になる。

出会ったきっかけなんか覚えちゃいない、それでもいつも佐川は

何故だか不思議と、呑みたい時は側に居た。



「何だっけ、年下の商社マンだったか?」

「違う、それ前の男。」



自分から出会いを求めている、いわゆるガツガツしたタイプではないと自負している。

大体が向こうからふらりと現れて、良い感じに口説かれて、そしてフラれる。

フラれる理由に心辺りなんてない、そもそもお互いの人間性を知れる程長い時間を共有していない。

今回の男は、他に好きな人が出来たから別れてくれとのことだった。



「22の、大学出たての事務のコに鞍替えすんだって。」

「なんだ、ありがちな話だな。」



ですよね、と呟いて焼酎をまたちびり。

火を点けた煙草はこの店に着いてからもう10本目になるだろうか。

煙草が嫌いだった元彼に気を遣っていた反動か、ヘビースモーカーの本性が顔を出す。

尤も、佐川も大概ヘビースモーカーな所為で今の今まで気づかなかったけれど。



「お前はさぁ、相手に合わせ過ぎなんだよ。」



お猪口を挟んだ指を揺らしながら、佐川が指摘する。

頬杖をついたまま無防備な声で返事をし、顔を向けた佐川の表情は笑っていた。



「女はよ、ちょっとくらい気紛れな方が良いんだ。我儘で、気分屋で、手綱を握って居たくなる。」



遠い目をして述べた佐川の頭の中には今どんな女が浮かんでいるのだろう。

昔の女を思い出しているのだろうか、それともまだ見ぬ理想の女の姿なのか。

ふぅんとやる気のない返事をしたなまえが、佐川の意見を反芻してみる。

確かに、自分は男に合わせるきらいがあるのだろう。

現に煙草だって止めていた、いや、止めてはいないがちゃんと隠れて吸っていた。

料理上手な女が好きだと言われれば手料理を振る舞い、

好きな女優を知れば彼女に近づこうと頑張ってみた。

その結果が、このザマだ。



「何それ、めんどくさい女。」



自分が男だったらきっとそう思うだろう。

仕事で疲れているのに、何が悲しくて女の我儘にさえ付き合わされなければならないのか。

なまえが鼻で笑うと、佐川は溜息をつきながら首を横に振った。



「馬鹿だねぇ、だからお前はフラれるんだよ。」



嫌味に笑う佐川に思いっきり眉間に皺を寄せて睨んでみた。

全く怖くない癖に、大袈裟に怖い怖いと引いてみせる彼の演技が白々しくて

なまえの焼酎がまた進む。



「ま、確かに俺も思うよ。めんどくせぇなって。」



腕を伸ばし、そうして肩を揉みながら佐川が呟く。

なまえがぴくりと反応すると、佐川が薄ら笑いで見下ろしていた。



「どこかに居ないかな、お酒呑んでも、煙草吸っても嫌な顔せず付き合ってくれる人。」

「さぁな。居ねぇんじゃねか。」



すっかり空になったグラスをカウンターに突き出しながらお代わりを催促する。

佐川の意味深な薄笑いを苦々しく思いながら

朝になったら、友人の誘ってくれた合コンを辞退したこと

やっぱり撤回できないかと連絡してみようと心に決めた。











解ってたはずのに






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