フラグをるよ。  @

















休日に暇を持て余したのでいつものメンバーを誘ってみたけれど

峯は相変わらず忙しく、品田は二日酔いだとかで

結局大吾とふたりで小一時間程街をぶらついて、目についた喫茶店に入った。

窓の外は雨が降りそうな新宿、たっぷりと湿気を含んだ灰色の雲の下で

なまえより少し年下だろうか、若い男が何度も携帯を見てはポケットにしまっていた。

その様を見ながら、アイスコーヒーのストローを唇で弄ぶ。

向かいの大吾はつまらなさそうに新聞を辿っていた。



「いいな、彼氏欲しいな。」



コロンと氷が泳ぐ音がして、なまえの唇がストローから離れて動いた。

なまえのひとりごとに大吾が顔を上げて目線の先を見ると

件の男の隣によく似合いの、薄いピンク色のスカートの女性がペコペコと頭を下げながら走り寄ってきていた。

デートの約束をしていたのだろう、そして彼女は遅れてやってきたのだろう。

申し訳なさそうに何度も謝る彼女の髪を直してやりながら、彼は笑っていた。



「何だよ、突然。」

「いや、別に。」



彼氏ができないんじゃない、作らないのだと普段から豪語するなまえは

定期的にぽつりとこんなことを漏らす。

カップルからやっと視線を外して煙草に火を点けたなまえは

つまらなさそうな溜息を吐いた。



「紹介してやるっつってんだろ。」



つられて大吾も煙草に火を点ける。

兼ねてからなまえにこんな愚痴を零されるたび、切り返していた決まり文句に

やっぱりなまえは首を横に振った。



「理想が高いって言われちゃった、友達に。」



学生時代につるんでいた、社会人になってからも年に数回は会う友人は既に結婚している。

いつまで恋人を作らないつもりなのかと詰め寄られ、なまえなりの持論を展開すると

理想が高いと一刀両断した、彼女の夫はサラリーマンだ。



「何、なまえ、お前学歴とか身長とか気にすんの?」

「んー、性格が良い方が良いんだろうけど、見た目も多少は小奇麗な方が良いよね。」



煙草の灰を灰皿に落としながら、そういえばなまえとこんな話をするのは初めてだと気づく。

時折寝る相手が居ることは、何となく察している。

酒の席で肴の代わりにと、以前寝た男との情けない笑い話だって話したりはするけれど

なまえは男友達の前であまり自分の恋愛遍歴をひけらかすことはなかった。



「年収か。」

「そこよ。」



女が男を選ぶ基準なんて顔か金かセックスだ。

大吾が提示した問題点にぴしゃりと指を突きたてる、今度はなまえが灰を落とした。



「せめて自分と同等程度に稼いで欲しいのよ。無意味に卑下されても、なんか嫌じゃない。」



世間一般に考えて、なまえはきっと高収入なのだろう。

金を金とも思わない世界に生きていると時折分からなくなることだけれど

新宿の高層マンションの2LDKに住み、車を維持し、出かける服に困らない生活は

それなりの収入がなければやっていけないことなのだ。

なまえの名刺の肩書は初めて出会った頃より随分出世しているはずで

何人かの部下を抱えていることからしてもきっと、それなりの年収を伺える。

大吾は眉を上げてなまえを見据えてみた。



「専業主夫って生き方もあるんだぞ、最近。」



今度はなまえが眉を上げた。

人ひとり養えと言われれば、なんとか可能な稼ぎはある。

専業主夫として生きる男性を批難などしない、理解はあるつもりでいる。

けれどそもそも、専業主夫希望の男性と知りあう機会なんてないし

その人の容姿や性格を好きになるかというと、それは魅力とか人間性の話であって

また別の話なのだ。



「どこかに居ないかな。稼ぎも身長も私より高くて、価値観の合うひと。」



自分で口にしてみて、思わずハァとまた溜息を漏らす。

理由があって希望がある、その希望だってなまえ本人にしてみたら普通のことだ。

例えばなまえが年収120万のフリーターで、身長が150cmだったとしても

同じことを望むだろう。

頑張ったら頑張った分だけ、奪い合うパイが少なくなるなんて不公平だ。

なんだか鬱々した気分になって、なまえは煙草をもみ消した。

向かいで大吾がなまえの条件を馬鹿にしたように口の中で呟いた。



「俺じゃねぇか。」

「はぁ?」



反射的に眉を顰めて大吾を見遣れば、意外にも彼は真顔だった。

ぽっかりと口を開けてゆるゆると紫煙を吐き出す様は、退屈している時に彼がする

いつも通りの仕草だった。



「やめてよ。」



鼻で笑って受け流す、一瞬大吾となら上手くやれるのだろうかと考えて

脳味噌の中の何かが、彼と良い仲になった自分を想像するのを妨げていた。

だよなぁ、と相槌を打った大吾もやっぱり同じ感想のようで

それっきりまた二人揃って無言になると、なまえは窓の外に視線を戻す。

あのカップルは、もう居なくなっていた。















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