ICECREAM













せっかく出て来たのにまた塀の中に逆戻りなんて

ウェントワース・ミラーもびっくりよ、と茶化すと冴島は頭の上にクエスチョンを浮かべた。

全世界で一世を風靡した有名な海外ドラマも

携帯電話が革新的な進化を遂げたことも、その他諸々の懐かしいニュースも

通じないジョークに、冴島は時折寂しそうな顔をする。



「本当に戻るの。」

「そら、そうやろ。」



遠い昔の大きな事件、真実が白日のもとに晒されて自身の潔白が証明されたとしても

彼は残りの懲役を務めあげることを選んだ。

定められたルールを、定められた方法で守ることは

冴島にとって当たり前のことだった。



「どうとでもなるでしょうに。」

「そういう問題とちゃう。」



どの道あの手の組織に属していれば、それだけでお縄物なのだ。

だからこそ、濯げる汚れは濯いでおくべきなのだと冴島は言った。

それが引いてはこの道の為なのだということまでは言及しなかった。



「してからじゃあ、だめなの。」



なまえが冴島の腕に手を伸ばすと、彼は上からそっと手を重ねて

しばらく握った後にするりとその手を離した。

彼が外へ出てきてから、会えなかった時間を埋めるように抱きあったけれど

それでも全然、全然足りなかった。



「楽しみが減るやろ。」



茶化すように笑う顔は思いの他あっけらかんとしていて

やっぱりウェントワース・ミラーもびっくりの気真面目人間だ。

そりゃあそうだ、彼と違って冴島は自ら進んで戻って行くのだから。

生憎なまえは医師免許を持っていない、一介の企業勤めの社会人で

頼まれたからって医務室の鍵を開けてやることはできなかった。



「待っていられないかも知れないのよ。」



例えば明日交通事故に遭ったり、いきなり病気になって入院したり

アラブの石油王に信じられない大金を積んで求婚されたりした日には

きっとなまえは冴島を迎えに行けない。

前回同様、塀の中で何かしら問題が起こって

冴島が帰ってこないかも知れないという不安は、脳味噌から追い出した。



「そん時は、そん時や。」



立ち上がった冴島がなまえの肩をぽんぽんと叩いた。

いつもこうだ、彼は大柄な体躯に似合わず気真面目で繊細な癖に

計画性というものがほんの少し欠けている。

もっと彼が狡賢ければ、違う人生が待っていたのだろうと思いこそすれ

そんな冴島なら惚れなくて済んだ、なまえにもきっと違う人生が待っていたに違いない。



「行ってらっしゃい。」

「おう。」



玄関を出て行く冴島の背に声を掛けると、彼は振り返らずに片手を上げた。

扉が閉まると急に静かになった部屋の中で、泣くまいと深く息を吸いこんで

煙草に火を点けてベランダの窓を大きく開けた。

マンションの前の道路には、色々な色の車が流れている。

向かいの雑居ビルの3階では何をしているのか知らないが、時折人が動く気配がする。

遠くで人の話し声がする、ずっと遠くのマンションの屋上に人影が見える。

人がたくさん暮らしている東京の街はうるさいのに、どうしてあなたは













ひとりしかないの







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