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暑くなってくると風呂上がりのビールは美味くなる。

まぁ、別にいつ呑んでも美味いのだけれど。

そんなことを考えながらソファに身体ごとすっぽりうずくまる、23時。

最近のつまみは専ら携帯ゲームだ。



「またやってる。」

「うん。」



隣に腰掛けた同じく風呂上がりの馬場が、なまえの肩に顎を乗せた。

一日中PCを使って目を酷使したのに、こんな時間までブルーライトに晒される眼球は可哀想だ。

きっと10年後には、日本は眼鏡だらけになる。



「好きだね、ハマってるの?」

「うん。」



めくるめく情熱的な夜も嫌いではないけれど、まったり過ごす平日の夜は何よりも好きだ。

これが金曜だったらもっと幸せなのだろうけれど

生憎明日も仕事なのだ。



「うわ、やば。」

「うお。」



敵キャラの大きな一撃にHPが1/3に削られてしまって、なまえと馬場は声を揃えた。

職場の後輩がハマっていると教えてくれた携帯ゲームをとりあえずダウンロードしてみて

結局ハマってしまってもう数か月。

馬場にも紹介したところ彼もそれなりにやってはいるようだけれど

元来熱しやすく冷めにくいなまえと、熱しにくく冷めやすい馬場とではハマり様が異なるようだ。

とりあえず回復アイテムを取ってしまおうとなまえが画面に触れた。



「あ、まだ取っちゃダメだよ。」

「ん?」



右耳のすぐ傍で馬場が呟く。

すっぽり背中を覆われた体勢のまま、馬場が左手をなまえの肩から伸ばすと

液晶に触れない程度の距離で敵キャラを指さした。



「このカウンター、次もデカいの来るから。その後の方が良い。」



同じゲームをプレイしても、馬場との性格の違いは如実に現れる。

多角的に物事を考え、周到に攻略する彼。

ガンガン攻めて先手必勝、やられる前にやるタイプのなまえ。

なまえに言わせれば馬場は頭でっかちだし、馬場からすればきっとなまえは向こう見ずなのだろう。

それでバランスが取れているのだから、恋愛というものは解らない。



「ホントだ、ありがと。」



馬場のアドバイス通り敵は攻撃し、なまえは有利にゲームを進めることができた。

少しだけ振り返って礼を言うと、馬場は少しだけ満足そうに笑っていた。



「なまえさんは俺が居ないと駄目だから。」



言いながら馬場は身を捩ると、部屋着越しのなまえの背中にキスをした。

腹に回された両手に力を込められても、ちっとも苦しくはならなかった。



「そんなことないですー。」



随分と上から目線の物言いに、冗談交じりの口調で返す。

馬場は背中に何度も唇を押し付けながら目線だけちらりと肩の向こうの携帯の画面を見た。



「違う、右が先。」

「ん。」



3体並んだ敵キャラを、何の気なしに左からやっつけようとして諌められた。

確かに彼の言う通り、右の方を先に倒した方が効率が良い。



「ほら、やっぱり俺が居ないと駄目じゃん。」

「あれー?おかしいなぁ。」



それ見たことかと言わんばかりの口調の馬場を、頭だけで振り返って見上げる。

へへ、と砕けた顔で笑う馬場と目が合うと、ついついつられて笑った後には

当たり前のようになまえはゲームの、彼はキスの作業の続きに戻った。






























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