tibia















情事の後の、湿気と埃の混じった空気の中で呼吸を整えた。

汗で額に貼りついた前髪を掻き上げて仰向けで倒れ込むなまえの顔を

満足げな尾田が見下ろして居る。

自分よりいくつか年長のはずのこの男は、随分ハードな運動をこなした癖に

息ひとつ乱れて居ない。



「くすぐったいよ。」



なまえが身動ぎするとシーツが衣擦れの音を立てて皺を作った。

膝から太腿、腰に掛けてを尾田の手が撫で上げていた。



「さっきまで喜んでたのに。」



試すような口調で手を止めない尾田の胸を軽くはたく。

最中も彼は快感に抗うなまえの足を撫で、掴み、抑え込んだ。

窘めても止めない尾田の愛撫から逃げだそうと、なまえは上半身を起こしてシーツを引き寄せる。

ほんの少し手を止めたものの、再度足を撫でる彼に苦笑いをして

結局されるがままにしておいた。



「ねぇ。」

「ん?」



膝を曲げても、彼との距離は開かなかった。

くすぐったいという訴えを少しは考慮してくれたのだろう、今度はマッサージをするように

脹脛や踝を親指で押しては離す動きを繰り返す。

時折唇を脛骨に沿って押し当てて、何度も何度もキスをした。

なまえが手を伸ばして尾田の髪を触ると、指の動きが一瞬だけ止まって

やっぱり同じく諦めたように、されるがままにした。



「どうしてそんなことするの。」



彼が触れやすいよう伸ばした脚、もう片方の脚を曲げて膝の上に置いた片腕の肘に頬を埋める。

尾田の髪を梳くなまえの指の隙間から、ちらりと彼が目線を寄越すのが見えた。



「言わなかったっけ、俺、脚フェチだって。」

「そうじゃなくて。」



時代の流れに乗って前途洋々、順風満帆な雰囲気で全身をコーティングしながら

その癖尾田は非常に解り易い男だった。

話を逸らしたい時、答えたくない時、冗談で紛らわす時

彼は必ず視線を合わせない。



「どうして怪我なんてするの。」



一介の不動産会社の営業マンだと名乗った彼の肩書は確かに間違いではないようだった。

決して嘘を吐くタイプではない、ギリギリの解釈で真実に捻じ曲げられる嘘を

なまえは信じる振りをした。



「転んだんだよ。」

「よく転ぶのね。」



尾田の答えも、なまえが無表情でオウム返しをするのも、毎回お決まりだった。

なまえが尾田の毛先を中指で弄る間ずっと

尾田もなまえの脚を唇で食み、指先でつつと撫で上げては掌を滑らせていた。



「もう転ばないで。」

「なまえの我儘はきかないことにしてるんだ、切りがないし。」



情事の後の癖も性感帯の所在もほくろの数も知っているのに、共有しない秘密ばかりたくさんある。

尾田の事を言えないなまえも埃が出る話題を叩かれたくなくて

一区切り付くように小さく笑って脚を引っ込めた。



「くすぐったいってば。」



これ以上弄られないよう、膝を抱えてシーツでしっかりと覆い隠すと

意地悪な笑いを浮かべて近づいた尾田がなまえを易々とベッドに押し倒した。

何の断りもなく、当たり前のようにまたわざとらしく脚を撫で上げた尾田に

なまえはくすくすと笑いを漏らす。

それ以上拒否する言葉をなまえが見つける前に、君の我儘はきかないと改めて念を押しながら

尾田の手は脚より上にゆるゆると這って上った。

























prev next



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -