lèvres












出会ったばかりの頃は頻繁だったセックスも、1年も経つ頃には月に多くて2度になり

一緒に居ても会話はなく、読書をしたり仕事をしたりと各々勝手に過ごすようになった。

ふと思いついたように触れられるのも、回数としては減っているように思う。

なまえの家で夕食を摂った数時間後、PCの前で仕事の雑務を片付けていたなまえに

帰ると告げた峯はブックカバーの掛けられた本に栞を挟んだ。



「もう帰るの。」

「明日早いからな。」



本来ならこんな会話はきっと、20時前後になされるべきであって

少なくとも日付が変わってからではない。

一般人とかけ離れたタイムスケジュールで生きる、人は彼等を日陰者と呼ぶ。



「タクシー呼ぶ?」

「いや、いい。」



PCの前から腰を上げずなまえが提案する。

きっと普通のカップルなら、もう肌を重ねた後であるべきこの時間にも指一本触れあわない

そういう関係に慣れてしまった。



「そう。」



終電はとうにない、どうやって帰るのかなまえの知る所ではなかった。

どこに帰るのかも勿論知らないし、別にどこでも構わない。

子供じゃあるまいし。

峯はなまえの顔を見ないまま簡単に帰り支度を整え、珈琲の残りを飲み干すと

去り際にゆっくりと顔を近づけた。



「ん。」



鼻先が触れあいそうな、残り3cmの距離でなまえの3本並んだ指が峯の唇を留めた。

キスもセックスも何度もした、お互いの癖はお互いより知り尽くしている。

けれど別に付き合ってくださいとラブレターを渡された訳じゃない。

交際しているのかどうか、何の区切りも持たないまま流れた数年間。

峯だけが特別なまえの唇を如何こうして良い権限はないはずだ。



「珍しいな、拒否か。」

「毎回あなたのキスを拒まない理由はないわ。」



色々屁理屈を並べ立てたところで所詮言い訳でしかないことは自分が一番わかっている。

どういうリアクションをするのか見たかった。

そんなシンプルな指3本だった。



「なるほど。」



峯はまるで納得していない口振りでなまえのマウスの上に添えられていた右手を取ると

椅子からぐいと立ちあがらせた。

腰に手を回され引き寄せられれば随分顔が近く見える。



「バクテリアの交換が免疫機能を高めることは有名な話で」



至近距離にあった顔がますます近くなり、一区切りすると峯は唇を合わせた。

今度は拒まなかったなまえは、返事をせずに目線で次を促す。



「多少の性的興奮と作業効率は比例するというのも事実。」



もう一度唇が触れあう。

少し応じてみたなまえの唇は薄く開いていたけれど、峯はそれ以上介入せずに

淡々と至近距離で説明を続けた。



「また、スキンシップはオキシトシンの分泌を促し、血圧の上昇を防ぐ。」



再度軽く唇が触れる。

彼の雑学はどれ程あるのだろうかと半ば興味本位になまえが小さく首を縦に振ったけれど

見つめ合ったままの峯の口はそれ以上言葉を続けなかった。



「あとは?」



今度はなまえの方から唇をくっつける。

腰に回された腕にぐっと力を込められて、先ほどまでとは違う荒々しいキスをされた。



「もうねぇよ。」



静かに呟いた峯の返答に満足したなまえは、峯の煙草の味のする唇を歪めて笑うと

顎を突き出し目を閉じて、続きを強請った。





















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