annulaire


















一日三食、食後は必ず珈琲を欠かさない。

遅い夕食の後だろうが必ず珈琲を淹れるなまえの習慣を、カフェイン中毒だと嗤った秋山は

いつからか当たり前のようになまえと同じタイミングで珈琲を飲むようになった。



「ねぇ、そろそろ結婚しようか。」



少し冷めた珈琲を口に運びながら、なまえはタブレット端末から顔を上げない。

ソファの横に掛ける秋山が上半身を捻って、背もたれに肘をついた。



「嫌よ。」



おもむろに、そして定期的に秋山から告げられる結婚しよう宣言はなまえが断るところまでがワンセット。

その後は大体何事もなかったかのように時間が過ぎるか、セックスをするかのどちらかだ。

なまえが右手で弄る端末の角を指先で弄りながら、秋山が首を傾げた。



「何十回プロポーズしなきゃいけないの、俺。」



なまえがやっと顔を上げ、秋山の方を見遣ると彼は全くやる気のなさそうな表情で

背もたれについた肘に頭を埋めて居た。

なまえに結婚願望がないことは知っているはずだし、そもそもお互い婚姻関係というものに向いていない性分だ。

そろそろ結婚しようかという言葉にしても、果たしてなまえと秋山が交際をしているのかもつまるところ曖昧で

お互い不純な異性の交遊関係がいくつかあることは、口にこそ出さないが明白なことだった。



「二度あることは三度あるでしょ。」

「2、3回の騒ぎじゃないよ、もう。」



今夜はやけに突っかかってくる、したいのかと思いなまえがキスを迫ると秋山は顔を背けて拒否した。

彼が気分屋なのは別に今に始まったことじゃない。

なまえはひとつも表情を変えないまま、タブレット端末に向き直った。



「指輪もないのにプロポーズ?」



液晶を滑るPDFをだらだらと斜め読みしながら、なまえが鼻で笑うと

あたかも今気づいたと言わんばかりに目を丸くした秋山が頭を上げた。

隣でソファのスプリングが軋む音がした。



「そうか、指輪か。」



端末に添えていただけの左手を取って、秋山がまじまじとなまえの手を見つめた。

手の甲を見つめたり、ひっくり返したり、人差し指をつまんだりして一通り弄り回すのを

なまえはやっぱり無反応のまま、されるがままにしていた。



「指輪は、今ちょうど持ってないなぁ。」



束ねた指を握って、薬指のあたりにキスをされるとほんのり暖かかった。

まるでいつもは持っているみたいな物言いに笑いそうになってしまったけど

それもちょっと癪なので、頑張って無表情を貫いた。



「指輪は後日、改めて。だから結婚しよう。」

「嫌よ。」



そっかと返して再び指にキスを続ける秋山は全く残念がる素振りも見せなかった。

いつも通りのお決まりのワンセット、今夜も平和な夜が続く。

お互い全く結婚する気もないけれど、もしいつかなまえが秋山の提案を受け入れたなら

もうプロポーズされなくなるのかと思うと、まだこのままでも良いような気はする。






















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