ワインを貰ったが一緒にどうだと誘う電話の背後は静かだった。

屋内に居るであろうことだけは伺い知れるような携帯の向こうのなまえは

ふたつ返事で馬場の申し出を承諾した。



「どうせならツマミもお願いしたい。家、今何もないのよね。」



悪びれもせずそう強請るなまえの頼みを、馬場はいつも断れない。

はいはいと呆れたように返事をすると、21時頃には帰宅すると告げたなまえは電話を切った。

平日の中日、今日は残業なのかと指定された時刻を少し回ったあたりで

なまえのマンションの前に件のワインと、ガサガサうるさいビニール袋をぶら下げて辿り着くと

馬場を追い越したタクシーが、エントランスの前に停まった。

ハザードがチカチカ点灯している間に一人の男が降りてくる。

そうして数秒程経った頃、なまえが続いて下りて来た。

タクシーの屋根に手をついた男となまえはしばし雑談を交わした後

男だけがタクシーに乗って去って行った。

去り際に、二人はキスをしなかった。



「残業かと思ってた。」



邪魔をするまいとわざと歩調を緩めていた馬場が声を掛けると

なまえは別に驚きもせず振り返った。

彼女の化粧は微塵も乱れていなかった。



「また新しい男?」



タクシーが角を曲がって行くのを、なまえの後ろで見届けながら馬場が問う。

なまえは無表情でタクシーを見送ると、ううんと明るい調子で首を振った。



「彼氏じゃないの、まだ。」



含みを持たせる言い方でそう吐き捨てる。

モテない、彼氏が欲しいと口癖のように言い続けるなまえの周りに男は途切れない。

恋人は居ないけれど遊ぶ相手は困らない、相手が深い仲になろうとすると

あっという間に逃げ出して、次の日には違う男と呑んでいる。

ただの友人を食事の後家の前までタクシーで送ったりしない。

あの男はなまえの気性を理解しているのかも知れなかった。



「イケメンだったじゃん、結構。」



ぽつりぽつりと弱々しく並んだ街灯に照らされた男の顔は整っていた。

年齢は馬場とあまり変わらないくらいだろうか、女受けの良さそうな顔立ちは

確かになまえの好みだった。



「応援してくれる?」



首だけを回して馬場を見上げるなまえの唇が歪んでいる。

少なくともこの数年の間に彼女を抱いた男の誰よりも、馬場となまえが共有した時間は長い。

今度は馬場が首を横に振るとなまえが身体ごと向き直り、彼の首に両手を回した。



「慰めてくれる?」



小馬鹿にした表情のままのなまえが背伸びをすると、街灯の影で彼女の睫が長く見えた。

首を延ばしただけで腰に手を回しもせず馬場がキスに応じてやると

彼女の髪から知らない香水の匂いがした。










代用を仕て上げて










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