カラケに行きたいよ。










「なぁ。」



テレビでくだらないバラエティが流れている。

アイドルと銘打たれた、そこらへんに居そうな女の子と

芸人と銘打たれた、同じくそこらへんに居そうな中年の若作りをしたおっさんが

無駄に大きな声で笑う雑音の合間に大吾が口を開いた。



「カラオケ行きたくねぇ?」



土曜日の夕暮れ、呑みに行くには少し早すぎる時間をなまえの部屋で持て余していた。

以前から置きっ放しのゲームは数十分で飽きてしまい、結局以前同様

漫画や携帯ゲームで各々が自由にリビングで寛いで居る。



「良いね、行こうよ。」

「行きたくない。」



肯定する品田の声と、拒否するなまえの声が重なった。

一人掛けのソファで足を投げ出していた大吾が身を起こす。



「なんでだよ、たまには良いじゃん。」

「やだ。」



なまえはソファに埋もれたまま、立てた膝の上で携帯ゲームを続けていた。

通信対戦がウリの昨今のゲームは、友達が居ない人間には少し酷だ。

どうしても欲しい進化素材のクエストを、品田に手伝わせている最中だった。



「行くなら3人で行けば良いじゃん。」

「何が悲しくて野郎ばっかでカラオケ行かなきゃなんねぇんだ。」



二人掛けのソファの隣に座った品田も、乗り気でないなまえに不機嫌な顔を向ける。

同じ携帯ゲームに興じて居るものの、すぐに課金するきらいのある峯は

何が楽しいのかよくわからないと、最強キャラを課金しまくった上で吐き捨てた。



「一番近いカラオケでも、こっから20分は歩くよ。」

「車呼べば良いじゃねぇか。」



しれっと言い切る峯を少し睨む。

別にカラオケが嫌いな訳では無いけれど、そこまでの道のりが遠いのと

素面じゃとても歌えないから、酒をガンガン入れていく作業が面倒なのだ。



「峯くんとか、歌うの?」

「歌うぞ、結構上手い。」

「マジで。」



大吾が、組の飲み会で一度歌わせた際如何に峯が上手かったかを物真似で表現する。

しかしながら彼の歌唱力では、峯が本当に上手いのかどうか分かりかねた。



「何歌うの。」

「福山とか、B’zだな。」

「あざとい。」



峯がウルトラソウルを歌うのは非常に興味深かったけれど

数年前4人でカラオケに行った時は演歌ばかり歌っていた。

それも随分酒が入っていたし、記憶に彼の歌声はほとんど残っていない。

それくらい、カラオケとは縁遠い歳になってしまったということか。



「辰雄はいつも同じ曲だよね。いーちーおーくーってやつ。」



携帯ゲームもそろそろクリアが見えて来た。

問題は進化素材がちゃんとドロップするかということだ。

なまえの隣に座る品田がちょっと得意気な顔をしたのも束の間、大吾が口を挟む。



「桐生さんの方が上手かったな。」

「やめて傷つく。」



品田がへなへなとしおれていくのは可哀想だったけれどちょっと面白かった。

ボスのHPはあと少し、これならなんとかクリアできそうだ。



「おたくで一番歌上手いのは、やっぱ桐生さんなんだ?」

「そうだな、あの人は基本なんでもできるからな。」



峯と品田、なまえが同じゲームをやっているというのに

大吾はちょっと違う種類のゲームをやるタイプだ。

例えば育成ゲームとか街づくりとか、そういうものをコツコツプレイする。

なるほど、たぶん性に合って居るんだろうと思った。



「じゃ、一番下手なのは誰?」

「んー…真島さんとこの…なんか派手なやつ。」



南くんのことか、と内心で納得して名前は出さないで置いた。

彼は上手い下手以前に、そもそもメロディ通りに歌うということを知らない。

品田に手伝ってもらったクエストを無事クリアしたものの、進化素材はドロップせず

峯に手伝ってと声を掛けると、彼は無言で携帯を出してくれた。



「なまえもカラオケ行っただろ、片瀬たちと。」

「あぁ、今年の始めくらいの。」



狭山が年始に帰国していた為、久々の飲み会のついでにノリでカラオケに行った。

歳の近い同年代のカラオケは彼女たちが高校生の時に流行った歌謡曲なんかと

各々の十八番を歌って3時間潰れた。



「帰りしなにさぁ、カップルに可哀想な目で見られてちょっと凹んだよ。」

「まぁ、あのメンツじゃなぁ…」



防音設備の行き届いた施設とはいえ、あれだけ大声で中島みゆきを熱唱していたら

そりゃ可哀想な目で見られても仕方ないかもしれない。

そんな時代もあったねといつか話せる日が、あのカップルにも来ると良いと

ちょっと思ったりした。



「まぁ、良いじゃねぇか。とりあえず行こう。」

「えー。キャバクラとかで歌えばいいじゃん。」



急きたてる大吾になまえは梃子でもソファから腰を浮かそうとしない。

既に少し外出モードになっている品田と峯は、ちょっと巻き気味にゲームをプレイしていて

先程よりずっとサクサクステージが進んでいく。



「嫌だ、カラオケ屋が良いんだ。」

「なんでよ、何歌いたいの。」



このメンツでつるむと、大体何かをしたいと言い出すのが大吾ではあるけれど

それになまえが乗るかどうかで話は変わる。

まぁ品田は金がないし、峯は大吾に逆らえないので

当たり前っちゃ当たり前なのかもしれない。



「アニソンだ。」

「OK、行こう。」



きっかりクリアしたゲームを終了して、さっさと上着を羽織る。

テンションの下がらない内にタクシーに乗りこんで、道すがら片瀬に経緯の説明と

お誘いのメールを送ったけれど、一瞬で拒否されたことは

峯には黙っておくことにした。











prev next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -