るよ。










1週間程出張に行っていたなまえからお土産があるよと電話があったので

久々にこのマンションに集まった。

最近では置きっ放しだったあのゲームも、なんだかんだやったりやらなかったりで

ぐだぐだと酒を呑んだり喋ったりしながら過ごす休日に

皆自宅にいるより寛いでいるんじゃないかという思いが、確信に変わりつつある。



「ほい、辰雄。これで合ってる?」

「そうそうそうそう!!ありがとうなまえちゃん!」



出張先の名古屋土産は、なまえが各々にひとつずつ用意していた。

嬉しそうになまえから品田が受け取ったものは、名古屋では有名な味噌の調味料らしかった。



「名古屋の人って、ほんとに味噌食うんだな。」



峯が品田の手元を覗きこみながら呟く。

マヨネーズのような容器に入った味噌調味料は、こちらでは見かけなかった。



「これさえあればさ、きゅうりとかだけで食い繋げるから…」

「あぁ…」



名古屋での品田の暮らしを目の当たりにしたことのある大吾が、小さく納得の声を漏らす。

たしかあの台所には、塩もなかった。



「大吾はこれ。」

「おぉ、サンキュ。」



和菓子好きな大吾のお気に入りは、赤福だ。

なんでも手に入る東京で、有名だけれど取り寄せる程でもなく

貰って嬉しい地方土産といえば、これと551くらいのものではないだろうか。

嬉しそうに大吾が包装を解くのを、隣で品田が見ながら

それ、名古屋じゃないし。と小声で突っ込んだ。



思い付かなかったから、となまえが適当に選んだ有名な手羽先屋が監修したらしいスナック菓子を手渡された峯は無表情だったけれど

ちょっと困惑している様が見て取れた。



「それにしても名古屋の人って、独特に訛るね。」

「そんな訛ってるかなぁ?」



赤福を皆で食べようとお茶を淹れながらなまえが品田に話しかける。

この家でコーヒーと酒以外の飲み物を出されたのは初めてかもしれない。



「イントネーションっていうか、呼称がさぁ。」

「ケッタって、ホントに言うのか?」

「言うよぉ。」



愛知の人は自転車のことをケッタという、と朧げな知識で大吾が問うと

老齢の方はケッタマシーンと言うんだと品田が胸を張った。

さすがに『えびふりゃあ』は言わないらしい。



「マクドナルドはなんていうんだ。」

「えー、どうかなぁ。人によると思うけど。」



有名なマクドナルドの略称については、関東と関西の中間である東海エリアでは曖昧らしかった。

ちなみに品田はマック派だと要らない情報を呟いていたけれど、そもそも品田は関東出身だろうと

突っ込むのも面倒になって、お茶に手を伸ばした。



「なまえちゃんは、マクドって言うよね。」

「出身は関西だからね。」

「その割には訛ってないんだな。」



就職で上京して、もう何年も経つ。

さすがに訛りも抜けるけれど、小さな所で残る故郷の名残を指摘されるのはちょっと恥ずかしかった。



「峯くんは訛ったりしないの?」



話を逸らそうと峯に話題を振ると、まだ湯気の立つ湯呑を冷ましながら峯が思案顔をした。

甘い物が好きではないと固辞しようとした赤福を、大吾に強く勧められて

断り切れない彼の前の小皿に、所在無く赤福がちんまりと乗っている。



「rとeが、逆になる。」

「すげぇ、かっけぇ。」



英語の話かと、ちょっと残念な気分になった。

どうせなら峯が博多弁を喋る所とか、割と期待していたのに。

そんなことを考えながらふと目をやると、同じくちょっと残念そうな顔の大吾と目が合った。

あぁ、やっぱり期待してたよね。



「若い頃はイギリスのシドニーに渡米してたからな。」

「すげぇ、かっけぇ。」

「待て辰雄。気付け。」



大吾と品田の高校の偏差値が気になった所で、ちょうどマクドナルドのCMが流れた。

最近では『安い、早い』よりも『ヘルシー、安全』が売りになっている世の中に

なんとなく時代の流れを感じた。

きっとまたいつか、安くて早いが正義に戻ることだろう。



「大吾は全然訛らないね。」

「そりゃあずっと東京だしなぁ。」



江戸っ子なのかと問うと、江戸っ子には何代続いて東京生まれとか厳しい規則があるのだと教えてくれた。

父親の事をあまり語りたがらない彼は、自分が江戸っ子なのかどうか

あんまり興味がないようだった。



「あ、でも結婚式とかの招待状のことチラシって言うのは、通じなかったな。」

「うん。それたぶん、業界用語だね。」



かつて任侠映画で仕込んだ知識が役に立ったのは初めてだったし

これからも二度と役に立つことはないだろう。

あっという間に空になったお土産の箱を片付けながら、不思議な関西弁を使う真島の出身地を聞こうと口を開いたけれど

噂をすれば、なんて諺が怖くなって口を噤んだなまえを、大吾が怪訝そうに見つめた。













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