山小屋で食べるカレーはどうしてこんなに美味しいのだろう。
味だけで考えれば、絶対その辺のレトルトカレーと何ら変わらないのに
シチュエーションというものはこうも人体に影響を及ぼすものなのだろうか。
「先行ってて、一服してから向かうから。」
2、3本程上級者コースを周回するとウェアの中はすっかり汗だくになった。
昼食を食べ終えてもうひとすべり、と浮足立つ3人に先に行って貰って
なまえは喫煙所へ向かった。
テンションでごまかしてきたけれど、さすがに徹夜明けのボードはキツい。
きゃっきゃと騒ぐ若者集団を見遣りながら、元気だなぁとちょっと引いた。
「あぁ、ターボ忘れた…」
急に思い付いたものだから、いつも通りのライターで来てしまった。
ターボライターでなければなかなか点かないのに、と後悔しながらライターと格闘していると
横からすっと男の手が伸びた。
「あぁ、どうも…」
礼を言いながら顔を上げると、よく見知った顔があった。
目力の強い、整った顔がゴーグルの下で笑った。
「馬場ちゃん!」
「久しぶり。」
馬場は自分の煙草にも火を点けると、久々の再会を喜んだ。
何気に忙しい冴島の仕事を手伝っている、彼とはなかなか一緒に飲む機会もない。
なるべく早く合流しようと思ったのに、話が弾んでついつい長居してしまった。
「あれ、なまえナンパされてんじゃん。」
「ゲレンデマジックですね。」
「ゲレンデ恐ろしい。」
なかなか合流しないなまえを探しに来た3人が、案の定喫煙所でなまえを発見した。
楽しそうに談笑するなまえをこのまま放って置いてやるか、
それとも割りこんで邪魔してやるかと逡巡する間に、品田が『あ、』と口を開いた。
「馬場ちゃんじゃん、久しぶり。」
「あぁ、その節は。」
その節に何があったのか、以前品田から聞いた情報によると「遥ちゃん殺そうとしてやめたからボコった」という
訳の分からない物騒な返答を得て以来、彼等が繋がっていることを知った。
ナンパではないと判明して、つまらなさそうにブーイングをする大吾と峯には
ブーツの力でいつもより2割程強烈なキックをプレゼントしてあげた。
「一緒に滑る?」
「ん?んー、いや、ちょっと俺はいいや。」
高速が混み始めるまであと少し。最後に1本滑ろうかと話す中で
馬場に声を掛けると、断られてしまった。
「えー、馬場ちゃん一緒に行こうよ。」
「いやぁ、一緒に行きたいのは山々なんですけど。」
僕、アレなんでと窓の外を指す馬場の指を追うと
なんだか見たことあるけど乗った事のない、大きな乗り物がそこにあった。
「冴島の兄貴に憧れて。次は猟銃の免許も取ろうと思うんです。」
スノーモービルに跨って颯爽と走り去って行く馬場の背中を見ながら
もう俺あの組がわからないと呟く大吾を慰めた。
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