おなべをするよ。







「鍋を。しましょう。寒いので。」



冬仕様に模様替えしたなまえの家に集まってしまうのは、その9割が炬燵の所為。

暖冬だと騒ぐ割にやっぱり寒い冬の夜になまえが端的な電話をすると

一番に食いついたのは品田だった。



「やったー!久々だよぉ、ちゃんとしたご飯。」



鍋用の食材をビニール袋にぶら下げて、スーツ姿のなまえが家に着く頃には

玄関先で品田が縮こまっていた。

とりあえず風呂を沸かしてやって、サッパリした品田は心底嬉しそうにしている。



「何鍋?」

「んー、適当。」



鰹と昆布で出汁を取って、適当に具材を入れれば勝手に鍋になる。

品田が洗った白菜をなまえがザクザク切って鍋に放り込む。

窓が蒸気でほんのりと曇ってきた頃に玄関のチャイムが鳴った。



「悪い、遅くなった。」



別に開始時間も設定していないけれど、ちゃんと謝罪してくれるところが大吾らしい。

迎え入れると、玄関先で手土産を渡された。



「何この箱。」

「肉。」



紗の包みを解くと、中から桐箱が出て来た。

なまえと品田が『おぉ…』と呟きながら蓋を開けると、整然と並んだ霜降り牛肉。

驚く二人を尻目に、ジャケットを脱いだ大吾がキッチンへ顔を出した。



「え、肉ってそういうもんじゃねぇの?」

「セレブリティ!」



かなり高級そうな肉だし、頃合いを見て入れることにした。

とりあえず炬燵にコンロと鍋をセットしてぬくぬくと火が通るのを待つ。

大吾の携帯に、もうすぐ着くと峯から着信があったので

先に一杯やるのも悪いしと思いながら、冷えたビールを固唾を呑んで待ち詫びた。



峯が到着したのは本当にすぐだった。

風呂上がりの品田は喉をキュウキュウ言わせる程ビールを渇望していたけれど

待っていて良かったとなまえが安堵を漏らす。

遅い遅いと騒ぎ立てる大吾と品田にとりあえず謝罪をしてから、峯がキッチンに顔を出した。



「もう出来てるよ、早く食べよ。」

「あぁ、これ、使ってくれ。」



冷えた缶ビールを取り出そうとする手を、峯の手渡す紙袋へ移した。

ずしりと重い中身を確認すると、手が震えた。

隣で洗い物を手伝っていた品田と目が合うと、なまえがそっと中身を取りだす。



「龍泉…ッ!」

「セレブリティ!!」



改めて彼らの財力の半端なさを思い知らされる。

せっかくなので鍋が終わってからゆっくり楽しむことにしようと浮足立っているなまえを

例のセレブリティたちは理解できないような顔で見つめた。



「いやー美味いねぇ。ありがと堂島くん。」

「辰雄、野菜もちゃんと食べなよ。」



歳が行くと肉はあまり受付けなくなるという説は、恐らく元プロ野球選手には通用しない。

なまえが窘めるのを適当に流す品田の手は一瞬の淀みもなく

鍋の中で存在感を放つ、高級そうな肉と彼の口とを往復している。



「豆腐もうねぇの?」



なんだかんだ集まって鍋をやるのも、もう何年目になっただろう。

以前はやはり肉と酒がメインだった卓上も、案外スッキリしたものだ。

やたら大吾が豆腐ばかり食べるので、本当に品田と同い年なのか疑問に思う。

それとも気苦労が胃に来ているのだろうか。

そして大吾の隣で白菜ばかりを黙々と食べる峯の前世は、ヤギか何かなのだろうか。


「白菜もっと足す?」

「…。」



無言で峯が頷いたので、キッチンで準備してあった白菜を足した。

以前はあんまり白菜ばかり食べるので、遠慮でもしているのかと思ったが

ごまだれと白菜は彼の鉄板と判明してからは、スーパーで白菜を2束購入することにしている。



「炬燵暑ーい。ねむーい。」



鍋をあらかた平らげてサクッと雑炊に移行してから、改めて龍泉を愉しんでいると

品田がだらだらとソファに移動していった。

この後録画しておいたお笑いでも観ようかとの提案に、一番乗り気だった癖に

筋肉に包まれた大きな身体は、お腹がいっぱいになると眠くなる素直な体質のようだ。



「寝るなら帰るぞ。」

「んー…ここで寝るぅ。」


大吾が気を遣って品田を起こそうとするも、品田はもう半分夢の中に旅立っている。

なまえが寝室からブランケットを持ってきてかけてやると

甘やかし過ぎだと怒られた。



「その内棲みつかれるぞ。」

「え、困る。彼氏連れ込めないじゃん。」



地方へ嫁いだなまえの友人が送ってくれた大量の蜜柑を炬燵で食べながら、峯が指摘する。

彼は蜜柑の筋を本当に丁寧に取る。



「彼氏できたのか。」

「居ないけど。予定では今年中に。」



カレンダーはもう最後の1枚になっているけれど、希望は捨てたくない。

年内の予定は仕事でいっぱいだし、出会いがある予兆もない現実から目を背ける。

食パンでも齧りながら出社すれば、角を曲がった途端に恋に落ちたりするだろうか。

大吾がもうひとつ、瑞々しい蜜柑に手を伸ばした。



「なまえの結婚式には東城会総出で出てやるからな。」

「本当やめて。」

「安心しろ、片瀬は学生時代バスケ部だそうだ。」

「峯くんは片瀬ちゃんにそろそろお休みをあげて。」



品田が本格的に寝入ったので、テレビの音量を落とす。

きっとこのまま朝まで眠るだろう。

いつものことだ、と思いながらなまえは蜜柑を口に放りこんで

絶対海外挙式にしようと心に決めた。







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