依存
 
※現代パロ(同棲)



 狂おしいほどの、依存



「ジェイド、出掛けるのか?」

身支度を整え忙しなく動く恋人にユーリが何気なく尋ねる。

「ええ。ガイが出先で怪我をしたらしくて、見舞いに。ああ、ガイというのは、」

「こないだ玄関先で立ち話してた男だろ?」

「おや、見ていたんですね」

同僚なんですよ、と話すジェイドにユーリは特に興味を持った風もなく、ふぅんと呟いた。

「倒れてきた看板の下敷きになったとか…大した事は無いそうですがね。まったく、この忙しい時期に」

「はは、まぁそう言ってやるなよ」

「その前はピオニーがバイクに轢かれそうになったと言っていましたね。皆このところ注意力散漫というか」

ボヤきながらも着々と身支度を済ませ、車のキーを握ったところでピンポーンとインターホンが鳴った。


「ジェイドー?」


玄関から聞こえてきた青年らしき声にユーリがぴくりと反応する。

「誰だ?」

「ああ、ルークですよ。ガイの弟分のようなもので。一緒に見舞いへ行く約束をしていたんです」

にこやかに答えながら、ジェイドは玄関から呼び掛ける声にはいはいと返事を返して再びユーリを振り返る。

「では、行ってきますね。夕飯までには帰りますから」

「ああ、気ぃつけてな」

交わされる声はあくまで穏やかに、にこやかに。

パタン、と閉まった扉を見つめながら、ユーリは一人ぽつりと呟いた。


「……ルーク、か…」





それからほんの数日後。

RRR… と電話が鳴り、ジェイドがパタパタとスリッパを鳴らして現れ受話器を取る。
菓子を摘まみながらぼんやりとTVを眺めていたユーリは、またぼんやりと背後のジェイドへと意識を向けた。


「…はい、…はい。え?……そう、ですか……」


カチャン。


「…どうした?」

受話器を置いて立ち尽くすジェイドを不審に思ってか、ユーリがソファ越しに尋ねた。

「…ああ、いえ。ルークが…」

「ああ、こないだの。ルークからか?」

「いえ、病院から…、です。ルークが階段から落ちて、怪我をしたそうで…彼が私に連絡するよう病院に伝えたそうです。…ただ……」

「ただ?」

「…どうも、誰かに突き飛ばされた、とか…」

「…」


とにかく見舞いに行かなければ、と動きだすジェイド。
何か引っかかるものがあるのだろう、その神妙な様子をユーリはただじっと見つめていたが。


「……、か…」

「………え?」


ぽつり、と。


それは空耳かと疑うほどの小さな声。
今、彼は何と言ったのか。


「ユーリ、今……」

「ん?どうした、ジェイド?」


にこり。
それはやはり聞き間違いだったのか。返ってきた声はいつものユーリで。


「あ、いえ…」


気のせいか、と息を吐いたジェイドはしかし次の瞬間、


(……っ!?)


ぞくり、と背筋に悪寒が走る。
にこやかな彼の笑みはいつもの通り。
けれどその眼に宿るのは、明らかな"狂気"。
獲物を捕食し、まるで独り占めにする獣のような──


「ユー、リ…?」


まさか。


「早く帰ってこいよ、ジェイド。ルークに"お大事に"って言っといてくれ。──ガイにもな」

「っ…!」

「二人の退院祝い、考えとかねぇとな」


ぞくり。


再び走った悪寒。
彼の眼に宿る、狂気。


ガイが入院しているとは言っていない。
ルークとガイが、同じ病院に居るとも。


ああ、あれはやはり聞き間違いではなかった。



『……生きてやがった、か…』



それは狂おしいほどの依存と、狂愛。








制作 H24/11/11



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