頭をなでられる。嫌いじゃないが喜べない
作者:Rey
CP:ユリジェ前提 ルーク→ジェイド
傾向:ほのぼの学パロ
内容:教師ジェイドに恋する学生ルー君
突然ですが
俺は今、"恋"をしています
「ルーク。…ルーク=フォン=ファブレ!」
「んー……、うわ!?」
なんだか聞き慣れたような声がしてうっすらと目を開ける。そこには見慣れた長身が仁王立ちで俺を睨みつけていて、驚いた俺はがばりと勢い良く上半身を起こした。
ここまで驚いたのも無理はない。
俺はその人に淡い恋心とやらを抱いていたのだから。
彼はジェイド。この学園で化学全般の講師を担当している。担任は受持っていない。
すらりとした長身。さらさらの髪に、精巧なパーツの整った顔。白衣も霞んでしまうほどの白い肌に、よく映える紅い瞳。
男の俺から見ても綺麗で、女子はもちろん、密かに男子からの人気が高いことも知っている。
生徒と教師。
男と男。
その一線を越えるのが怖くて、俺はなかなか気持ちを伝えられないまま。きっと俺と同じ想いを持つ人間は山ほどいるんだろう。
「うわ、ではないですよ。私の授業で居眠りとは、いい度胸ですねぇ?」
「う、ご、ごめん」
周りからちらほらと笑い声があがる。席を立ってるヤツもいるから、とっくに講義は終わってしまったんだろう。
「やれやれ…明日はテストですよ?大丈夫なんですか?…大丈夫ではないでしょうに」
「ちょ、聞いたそばから否定すんなよ」
確かに勉強はちょっと……かなり、苦手だけれど。
「私の授業はそんなにつまらないですか」
「! そ、そんなことないって!!……あ」
思わずガタンと立ち上がって大声を出した。ジェイドの顔が悲しそうに曇るのが嫌だった。
周りの視線に気づいて慌てて座る。くすくすとジェイドが笑うのが見えて、なんだか恥ずかしくなって目を逸らした。
授業ははっきり言ってさっぱりわからない。ジェイド自身や、彼の手がボードに描くキレイな文字に見とれている俺にも問題があるけれど、あまり賢いとはいえない俺の頭にはジェイドの難しい言い回しが言葉というよりクラシック音楽のように聴こえてしまって。
「私の担当した科目で赤点を採られてしまっては、悲しいですねぇ」
「う…」
ジェイドが態とらしく肩を落とす。態とだとわかっているのに申し訳ないような気持ちになるのは惚れた弱みってやつなのか。
「まぁまぁ、その辺にしてやってくれよ、せんせ」
不意に横から入ってきたその声。同じクラスでわりと仲の良いロイドだった。
「そうですねぇ…というか、貴方もですよ?ロイド」
「う」
ジェイドの紅い眼に射抜かれて、ロイドがちょっと後退る。ロイドも俺と同じく赤点補習の常習犯だ。類は友を呼ぶってやつなのか、一緒に補習を受ける内に俺達はいつの間にか仲良くなっていた。
ジェイドともそんな風に自然に仲良くなれたらいいのに、俺とジェイドの間には差がありすぎて近づくことすらままならない。
「ちぇ。ヤブヘビだったな」
「おや、よくその言葉をご存知でしたね。しかも用法も合っていますよ。これで国語のテストはバッチリですねぇ?」
「…やな奴」
「っと、次の講義があるんでした。二人とも、ちゃんと予習しておくように。わからないところはキールやルカ君辺りに訊きなさい」
一息に言うと、ジェイドはさっさと教室を出ていってしまった。踵を返した時に微かに香った香水の匂いに心臓が跳ねた。
数日後。
俺は補習用に宛がわれた空き部屋に座って先生が来るのを待っていた。隣にはロイド。
案の定、俺達は見事に赤点を獲得していた。
ガラ、と勢い良く扉が開いた。
先生かと思って姿勢を正したものの、現れたのは…
「あれ、ユーリ?」
ユーリ。
上級生で、ロイドの友達のゼロス(同じく上級生)がなぜかよくつるんでいる男だ。
基本的に一匹狼で近寄り難い雰囲気のせいか、ちょっと敬遠されがちらしい。美形だから隠れファンが多いみたいだけど。
「ロイド、と…ルークか」
「どうしたんだ?まさかユーリも補習?」
「じゃなきゃ来ねぇよ」
「揃いましたね?席に着いて下さい」
ちょうどその時、先生が…というかジェイドが入ってきた。どうやら今回は3人だけらしい。
「今回は人数が少ないので纏めて行うことにしたんですよ。…やれやれ、なるべく簡単な問題を選出したというのに」
肩を竦めたジェイドにちょっと居たたまれなくなる。
「今配った課題を全て終わらせること。わからないところは質問して下さいね」
「…せんせー、全部わかりません」
「まずは自分で調べなさい」
それから俺達は黙々と課題に取り組んだ。
こうして、普通の授業よりもジェイドと近い位置で勉強ができるなら、補習も悪くない……なんて言ったら怒られるだろうか。
ただ、なかなか飲み込めないロイドに一つ一つ丁寧に説明しているジェイドを見るのはちょっとモヤモヤする。
暫くして、ユーリがペンを置いた。
「─……ふむ、よく出来ました。流石ですね」
パラパラと一通り頁を捲って、ジェイドがユーリに笑いかける。しかしすぐに肩を竦めて
「まったく…貴方は基本的に勉強は出来るんですから、テストくらい受けて頂きたいものですねぇ」
「なんだユーリ、テストさぼったのか」
「あー、あん時は眠くてさ、屋上で寝てた」
「…はぁ…」
深い溜め息をつくジェイド。ユーリは普段の授業もよく姿を消しているらしい。これで頭は並以上なんだから、世の中って不公平だ。
「やれやれ…次はちゃんと受けて下さいよ」
「んー、化学以外ならな」
「どういう嫌がらせですか」
じとりと睨むジェイドにユーリがからりと笑った。ただ軽口を叩き合っているように見える、その光景。
……だけど、
「狭い教室で他のヤツらとマトモにテスト受けるくらいなら、俺はアンタと二人きりの補習を選ぶね」
「…っ、」
(……。)
その台詞に、ジェイドが一瞬だけ息を呑んだのがわかった。
少しだけ、心臓の辺りが苦しくなった。
「あー、わかるわかる。こうやって少人数でゆっくり勉強した方が楽しいよなー」
ロイドだけが、純粋に"人数"の問題として笑っていた。
勿論それもあるんだろうけど、それだけじゃないってことを、ジェイドに向けられたユーリの不敵な笑みが物語っていた。
ジェイドはすぐに眼鏡に手をやり立ち上がる(眼鏡に手をやる時は、気持ちを隠したり落ち着かせようとする時だって俺は知っている)
「…少し、休憩を入れましょう。お茶を淹れてきます。ユーリは…」
「俺もコイツらの補習手伝ってやるよ」
「…。わかりました、お願いします」
ジェイドはそれ以上何も言わずに部屋を出た。俺とユーリの間に、なんとも言えない微妙な空気が漂った。
「ユーリはいいよなぁ…」
「そうか?まぁ、俺もここに至るまでけっこー苦労したんだが」
「ん?何の話だ??」
確かに、俺とユーリじゃ、ジェイドと一緒に過ごした時間に差があるから仕方ないといえば仕方ないけれど。
時間だけじゃ埋められないものも沢山ある。
たとえば、
『流石ですね』とユーリに向けられたあの眼と微笑み。
きっと俺には一生向けられることはないんだろうなと、少し肩を落とした。
***
ぱらり、ぱらりとページが捲られる。
ユーリの時とは違う、その速度さえもなんだか悔しい。
そして、
「──よくできました」
くしゃり、と細い指が俺の髪に差し込まれた。
触れられるのは、凄く… すっごく、嬉しいけれど。
でも、やっぱり
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もっと対等になりたいよ
THE☆子供扱いww
制作 H22/10/31
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