05
保健室にいくまでの間、私たちはどちらとも無言で授業が始まった校舎内はしんとして静けさが際だった。
養護教諭の先生は出張で不在ならしくドアに【何かあったら職員室に】と書かれた貼り紙があった。
そんなの関係ねえと言わんばかりに瑞垣くんは保健室のドアを開けて私の手をひきずんずん中に入っていく。

「まあ、座れや」

「……は、はい」

いわれるがまま背もたれのない丸い椅子に腰掛ける。瑞垣くんはというと慣れた様子で保健室にある冷蔵庫をあけて冷やされた湿布を取り出した。

「右手出して」

「……ん」

心なしか普段より優しい口調で袖を捲るように言われたから素直に制服の袖を捲るとさっきまで瑞垣くんに掴まれてたソコは赤くなっていた。……道理で痛かったわけだよ。
赤みを帯びた部分に冷やされた湿布が貼られ「うひゃあっ」と変な声が出てしまった。泣いたせいでさっきまでつまってた鼻に湿布特有のツンとした匂いが入ってきてスッキリする。

「ごめんな」

「……え?」

「そんなに強く握ったつもりはなかったんやけど……泣くくらい痛かったんやろ」

「あ、違うの!いや、確かにチンパンジーか!って言いたくなるくらい痛かったけど、その、怖くて……」

「怖い?」

「うん。瑞垣くんが怖くて泣いちゃったの。ごめんね、怒らせちゃって。でもね、瑞垣くんが何で怒ったのかわからないからこのごめんは意味がないの。だから、どうして怒ってたのか教えて」

「それは……言えん」

「ええっ!どうして?」

「言えんもんは言えん」

いや、私が悪いことをした自覚がないのがいけないけど自覚しようにも心当たりがないんだもの!

「ただ、あんま俺以外の男子と話さんでほしい」

納得のいかない様子で口を尖らせたら瑞垣くんがゆっくりと口を開いて言った内容は些か無理があるものだった。
でも、小さな声で言いにくそうにそう呟く瑞垣くんがすごく可愛いというか、愛おしく思えて私は困った。

「わかった。なるべく話さないようにする」

「絶対やぞ」

「うーん……事務的なことくらいは許してほしいな」

壁時計を見るとまだ授業が始まってから10分も経っていなかった。泣いたせいで少し目が腫れてしまったけど、だいぶひいたはず。

「そろそろ戻ろっか」

向かい合う形で座ってた瑞垣くんにそう言って立ち上がると湿布を貼ってない左手首を掴まれてしまった。

「えっと、瑞垣くん?」

「もう少しだけおろや」

まだ名字の目赤いし、と理由をつけたして瑞垣くんは私を再び椅子に座らせた。
暖房のついてない保健室は寒くて静かだったけど身体は妙にポカポカして心臓は100メートル走を全力で走った後くらいバクバクして煩かった。





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