09
【明日空いとる?】

お風呂あがりの牛乳を飲んでいたとき絵文字も何もない淡白な文面のメールが瑞垣くんから送られてきた。来週の月曜日には学力診断テストが控えている。受験生というレッテルを貼られている以上私も一応勉強という名の悪あがきをしようと思っていた。

【空いてるけど、月曜日のテスト勉強しようかなって】

そう返信し携帯を閉じること3分、

【図書館で勉強せん?】

またまた素っ気ない文面でそうきた。
図書館で?
勉強?

【えと……それは瑞垣くんと?】

恐る恐るそう聞いてみると、送信して一分も経たないうち瑞垣くん用の着信音が鳴り響く。

【アホか。他に誰がおるんや】

怒られた……。
気のせいかもしれないが、瑞垣くんは一日に三回は私のことをアホ呼ばわりしている気がする。いや、アホなのは確かに事実なんだけど、こうもアホアホ言われると悲しくなってくるからやめてもらいたい。
まあ、そんなこと恐ろしくて言えないんだけどね!

【ご、ごめんなさい。何時頃から?】

気を取り直してそう返事すると10時からと返ってきた。

【わかった。10時に奥の学習コーナーで待ってるね。おやすみなさい】

まだ寝る時間にはほど遠いけど形式上の挨拶をして携帯を閉じる。
時間にして20分もなかった瑞垣くんとのメールでのやりとり。瑞垣くんからの返事を待っている間、私の心臓は普段より妙に速く脈打ち、着信音が鳴る度にそわそわどきどきした。



**********



家から自転車で15分くらいしたところにある町立図書館は休日だけど人はまばらで少なく、しんと静かだった。
朝からさんざんどの服を着ていこうか迷ったけど図書館で勉強するだけだから、派手な服はやめて落ち着いた色のチュニックとショートパンツの下にタイツを履きダッフルコートを着てきた。
待ち合わせの10時までにはあと数分ある。少し早く着きすぎちゃったみたい。
と思ったけど待ち合わせ場所にしていた学習コーナーにはすでに瑞垣くんらしき人がイヤホンで音楽を聴きながら難しそうな小説を読んで座っていた。

「み、瑞垣くん!」

図書館では静かに、小さい頃からいわれ続けてきた言葉を胸に小声で瑞垣くんに話しかける。どうしよう、人違いだったら。

「おお、名字か」

「ひょっとして待たせちゃった?」

「いや、さっき来たところやしそもそも、まだ待ち合わせの時間やないんやから気にすんな」

「そ、そうだね」

さっききたとこ、か。な、なんだかデートしてるカップルみたいなやり取りだぞ……!
図書館の中は暖房が効いてるためすごく暖かい。さっきまで極寒の中、自転車をこいでいたからいきなりの温度差に顔の皮膚がふにゃふにゃする。
てか、瑞垣くんの私服かっこいいんだけど。着ている本人がイケメンだから当たり前なんだろうけど、かっこいい。

ちょっと温度設定高すぎるんじゃないかな。すごく顔が火照るんだけど!

「顔赤いぞ?コート脱いだら?」

「そ、そうだね!いやあ暑い暑い!それより勉強しよう勉強!」

「まあ、そのつもりで来たんやけどな」

なんや今日の名字変やな、そう付け足す瑞垣くんはくすりと大人びた笑みをこぼした。
心臓に悪いからそんな笑い方をしないでほしい。
カバンから数学の問題集を取り出して数式と睨めっこを始めたけれど、向かい側に座る瑞垣くんのことが気になって一向に集中出来ない。
心頭滅却!煩悩退散!
何ぼーっとしてるんだ私!明後日はテストなんだぞ!
漸く一問解けたところで解説を見てみるとどこかでケアレスミスをしたのか微妙に間違っていた。どこを間違えたんだろう。

「そこ、符合がマイナスやなくてプラスや」

「え!ああ!そうだね!だから答えがプラスになっちゃってるんだ!」

瑞垣くんに指さされた箇所を見てみると確かに符合が違ってた。
私はテストでよくこういったミスをするから気をつけなくてはいけない。

「そこで展開するから計算ミスするんや。ここは……」

瑞垣くんがミスをしない解き方を教えてくれているけど全く頭に入らない。
とりあえず相槌をうっていると「本当にわかっとるんか?」と聞かれた。ごめんなさいわかりません。
その後も瑞垣くんは私が間違える度に分かり易く解説をしてくれた。
おかげで二次方程式はばっちりだ。


**********



「腹減ったな」

時計の針が12時を回った頃、読んでいた本を閉じて瑞垣くんがそう呟いた。
そう言われると私もお腹が空いてきた気がする。

「そうだね」

「コンビニ行くか」

「あ、ちょっと待って!荷物片づけるから」

机の上に広げてあった教科書やら図説やらノートやらを閉じてバッグの中にしまい込み、椅子にかけてあったコートを羽織る。

図書館の近くにはファミレスやファーストフード店は無く、唯一あるとすれば徒歩三分の距離にあるコンビニくらいだ。



ガラスのドアを開けて中に入ると店内にはお昼ご飯を買いにきたサラリーマンらしきおじさんとてかてかのダウンジャケットを着たお兄さんしかいなかった。お昼時にこの客足の少なさは大丈夫なのかな?
瑞垣くんはコンビニに入るなりまっすぐにおにぎりのコーナーに行ってツナマヨを2つと暖かい緑茶を買ってレジに並んでいた。

「瑞垣くん早っ!」

「そうか?あ、ゆっくり選んでええから」

そう言われてもなあ……。
特に食べたいものが思いつかなかった私はホットココアをレジに持って行き肉まんとカレーまんを頼んだ。

「ココアと肉まん……?気持ち悪い組み合わせやな」

「な、食べたかったの!意外と美味しいんだから!」

「へー。まあええわ。外の椅子に座って食べよ」

むきいいい!
コンビニでツナマヨ2つも買う人にとやかく言われたかないやい!
と心の中で毒づきながら私はほかほかの肉まんにかぶりついた。うん、美味しい。
私の隣でツナマヨをほおばる瑞垣くんは「マヨネーズがイマイチ……」と少し残念そうだった。

「瑞垣くんココア飲む?」

「あのなあ、ココアとツナマヨって絶対あわんやろ」

「試さなきゃわかんないよ!」

「試さんでも不味いってわかるわ」

そう言いつつも瑞垣くんは私の差し出した飲みかけのココアを受け取り口につけた。
……ん?
飲みかけのココア……?

「ああああああ!」

「どした!?」

「あ、いや!なんでも御座らんよ!アハハハ!」

「?変な奴」



瑞垣くんとか、かかかか間接チューしちゃった……!
瑞垣くんはというと相変わらずツナマヨを食べている。
私だけが照れてるなんて……余計に恥ずかしいわ!
バクバクと五月蝿い心臓と隣にいる瑞垣くんのせいで美味しいはずの肉まんとカレーまんの味がよくわからなくなってしまった。





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