幼い頃、不甲斐ない父親を見て育ったせいか、私は大人になったらいっぱい働いてお金を稼いで、身体の弱い母を楽にしてあげるんだという誓いを胸にたてていた。
そして15歳になった今、私はあまり評判のよろしくないドクタケ城に事務員として勤めている。
ここに就職した理由は給与が高いことと家から近いこと、ただそれだけだ。評判が悪い上に給与が低いとなったら今頃ドクタケは潰れていただろう。
算盤で今月の給与を計算して私はにやりと口角をあげた。よし、今月も稼いだぞ私。
三日後の給料日が待ち遠しくてスキップしているとドクたま達に「あの事務員のみょうじなまえがスキップしてるぞ!」と二足歩行をする猫を見たかのように驚いた顔をされたが今の私にはとるに足らないことだ。

「ふふん、ガキの君たちにこの喜びはわかるまい」

「うるさい金の亡者!」

「キャプテン達魔鬼にこの前しぶ鬼が『しゃくれの遺伝子が受け継がれてたらどうしよう』って言ってましたってチクってやろっと」

「やめろ守銭奴!」

「へへ〜んだ。チクるもんね〜。私一度決めたことは貫き通すもんね〜」

「父さんになまえのボーナス無しにしてって言うぞ!」

「おいそれはまじでやめろ」

クソ生意気な顔をして「やだよーだ」と言うしぶ鬼のほっぺを有らん限りの力で捻ると「いひゃいいひゃい!」と涙目で訴えてきたので心優しい私は手を離してやった。

「くっそー覚えてろよ!」

三下のような捨て台詞を吐き捨てしぶ鬼はどこかへ行った。それに続いて他のドクたま達も走り去った。
基本的にドクたま達は私をなめている。五歳も年上の私に敬語を使わないしそもそも呼び捨てだし。格下に見られているといっても過言ではない。でも私からしてみれば私を見下したつもりでいる哀れなガキたちでしかない。
普段ならここで腹いせにドクたまの厠の便所紙を抜き取るという陰湿な嫌がらせをするところだが今日の私は一味もふた味も違う。なんたって、もうすぐ給料日だから!

「機嫌がいいな、みょうじなまえよ」

「うわ八方斎さま昇給してください」

「うわとはなんだうわとは!しかも人の顔を見るなり昇給しろとはなんだ!クビにするぞ!」

「私をクビにしたら一番困るのは八方斎さまだと思いますよ」

ただでさえ人手不足なドクタケ城はたった一人辞めただけでそのぶんのしわ寄せが他に一気にいく。
敏腕事務員の私が抜けたらなおのことだ。
私の言葉にぐぬぬぬぬとやったらデカい頭を捻らせ唸った。へっ、私をクビにしようなんざ六十年早いんだよばーかばーか!頭でっかち!こちとら定年まで働くつもりじゃ!

「まあいい。昇給はこれからの頑張り次第だ。精々ドクタケの為に身を粉にして働くがよい」

なんで私はこんな何の取り柄もない上司のもとで働いてあるんだろうか。
あ、給与がいいからだ。

ぱからっぱからっぱからっとアホ丸出しで張りこの馬に跨る殿に一生懸命働いてますよということをアピールするため私はてきぱきと身体を動かした。