赤く染まる目。
涙腺は崩壊すると留まることを知らない。ティッシュで鼻を摘み、寝転んだ骸はまた涙した。

骸にとって自分に対する物事は全て人事に終る。
自分に害があろうとも人事に終らせる。強制なのだ。そうすれば何事にも耐えれるから。
臆病者のする行動だと判っていても癖付いたものは中々直すことは出来ない。

ぼんやりと寝返りをうつ。
微かに耳が潰れ変形し、痛んだが、これは骸自身の身体ではないし、只の入れ物でしかない。
だから、痛い、痛くないなど判断することさえも今の骸にとっては関係ないのだ。

牢獄に眠る本体には、脳味噌も心臓も機能するものは揃っている。
しかし孤独のなか感情を支配するのは困難だった。
当初は気にしてもいなかったが、こんな牢獄に尋ね人等いる筈も無く、気がつく頃には、日に日に窶れていた。

毎日、水の中。
暗く、明かりなんて優しいものは存在しない。
母胎の羊水を思わせるような心地好い水ではなく、真逆の凍えるような水。
助けて欲しいと言えば、守りたい人までもが犠牲になる。なら、自分が耐え切れば良いだけの話ではないのか、と――骸は感情を逃がしたのだ。

再びティッシュを手に取る。
かさ。
かさ、か、かさ。
影のように、幾ら走っても地から離れても引っ付いて退くことのないそれに、逃げ切ることは出来なかった。現に骸の今の状態からして判断出来るだろう。
影は暗闇になれば消える。が、言い方を変えれば暗闇と一体になる。つまり自身イコール影、と、骸は考えるようになった。
そうなるとずっと一緒と云うことで、明かりを消せずにいたことさえもある。けれど影にのまれることが恐怖の対象になっていた筈が、影すらも恐れるようになり、どうも仕様が無い程、陥っていた。
誰かに任せることが出来たら楽だが、生憎骸の能力は感情を移せたとしても感じるのは結局自分自身が受けるので逃がすことは出来ない。

骸はティッシュを全部ひとつに丸め、その体勢のままベッド下にあるごみ箱へ力無く投げ込んだ。
ナイスシュート。
綺麗な弧を描き、目的の場所へと収まった。

いっそ感情も捨てれたなら、と、骸は嘲笑を浮かべて酷く憾んだ後、やっと眠りについた。







( 安 眠 妨 害 )




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