*髑骸要素が皆無と云って良いくらいの髑骸










かみなり。
空が光った。仰げば左は薄暗い青で右は鼠色の雲が広がっており区切りがある。どちらにしても曇天には変わりがないのだが。だから雨が降るなら一層のこと降ってほしい。しかしそれを思う当人の骸は、生憎、傘を持っていない為、降らないことを祈り自転車のペダルを勢いよく漕ぎ始めた。

骸は雷が苦手だ。お子様な理由ではなくトラウマ的な存在だった。光を見ると勝手に脳が思い出させるのだ。思い出したくもないのに。噎せ返る薬品の臭いとチカチカ光る手術室の明かりを。

骸は幼少期に、親に売られ、とあるマフィアの実験台となった。そして麻酔無しの手術を受けた。意志など尊重する暇なんて、先ずそれを言わせることなんてさせないままメスが右の頬と目の中間部分を裂く。言わずもがな激痛だった。あ、あ、と、途切れ途切れに喉から漏れた声。否、声と云うより、音に近い声と云える。意識が無くなる頃、骸の右目は偽の右目になっていた。混濁とした意識の最中、それだけが確かだった。

午後六時二十四分。そう腕時計が示していた。遂に降り始めた雨はワイシャツに染み込み気持ちが悪い。
雷がないた。まったく、泣きたいのはこちらだと云うのに。
骸は自宅に着くまでペダルを漕ぐのを止めなかった。止めると捕まると思ったからだ。彼らが今にも地を這ってでも追い掛けてくるのではないかと。骸の心には彼らは未だ生きていた。現実では有り得ないことだが、架空を踏まえた上なら自分で変換出来てしまう。だから骸の心に植え付けたそのトラウマが怯え、泣いていたのである。

自宅に辿り着く頃には優に七時は回っていた。靴も脱がずに玄関先に倒れ込んだ骸は無気力だった。何もしたくない。かと云って死にたい訳でもない。本当に無気力だった。しかしこのままでは風邪を引いてしまうとふらつく身体を何とか壁で支え狭い廊下を伝う。数秒後、やっとの思いでリビングのソファーに腰掛けた。たった数秒であろうが骸にしては緩く長いものだった。溜息をつく。こんなにも疲労を感じたのは久しく思うように対処が出来ない。心神のケアとなると尚更だった。
もうひとつ溜息をつくと懐に仕舞ってある携帯が震えた。そして暗闇の中、手にして開いた隙間から光が射す。ディスプレイが光ったのだ。目を瞑った。又しても恐怖が駆け巡る。けれど自分に向け発信しているのは知り合いかもしれないと、骸は瞑った目を再度開いた。ディスプレイに表示されていたのはとある少女の名。直ぐさま通話ボタンに親指を走らせる。

「もしもし、骸様?」

軟らかい声だった。今の骸の心を鎮めるには相応しく温かさを与える。骸は柄にもなく涙を流した。初めて彼が泣いたのを訊いた少女だが驚きもせず、寧ろ見透かしたかのように、私が骸様の傍にいますから、と囁いて骸を宥めた。
少女の名はクローム髑髏。出逢った当初から髑髏は骸がいちばん欲しい言葉をくれた。情でも偽りでも無かった。髑髏には骸しかいない。その真実だけが骸に影響を与えた。もうひとりではないのだと。そう思うといつの間にか骸から震えは消え去っていた。
















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