カラカラ、カラ。
なにかが違う、こんな筈ではなかったのに。後悔のなか僕を呼ぶ声が後方から飛んできた。
ああうるさい邪魔な声!
「六道くん!やっほ!…って…あれ…?」
骸くんって言ったほうがいいのかなあ?と呟き、うぅんと頭を唸らせて悩む彼女。僕は貴女とそこまで仲良くなったとは思ってないんですがねえ。まあ面倒臭いのでおいておきましょう。だがそのまま立ち去ろうとしたとき彼女の口から悍ましい言葉が飛び出た。
「ねえ待ってよむっくん!」
「は、」
カラ、カラ。ガッシャン。
思考が一時的にとまったのがわかった。同時に自転車のハンドルが手の平から足先へと落下。じくじくと地味伝わっていく。鈍痛。
彼女は今なんと言った!
「んーなあに?」
「貴女いまなんと…」
「待ってって言ったの」
「いやそのあとですよ馬鹿」
ぴゅうっと風が吹く。
なんて言ったけ?って惚けてるんですか知りませんよ暢気でいいですねコノヤロー。嫌でもニヤつく彼女の目と合う。
「あだ名っていいよねー」
「…話が見えません」
「むっくんって結構いいセンスしてると思うんだけどさぁ」
「それです、さっきの訊いたこと」
「さっきってなんだっけ?」
苛立ちは増す一方。抑えながら先程地面へと落下した自転車を起こす(いや、落下されたのほうが正しいだろうか)。
ああそれにしても寒い。空に広がっていた橙が薄暗い闇へと融けていく。こんな厄介な奴放って自転車に乗って急いで自宅へ帰りたいものだ。
「後ろ乗せてよ」
「嫌です」
「え!なんで!」
「貴女が重いからに決まってるでしょう?」
「うわ、女の子に嫌われるよ!」
「貴女以外に言いませんから」
「ふふ。ある意味特別だね」
「…どこがです。第一、他にも有りますからちゃんとした理由が」
「ひどっ!しかもなにそれ」
「………寒いからです」
寒いから自転車で帰りたくない。確かに思った。が、たわいない話をしながら貴女と帰りたくなった。ただそれだけなんです。僕の気が向くなんて珍しいことですけれどね。
「じゃあいっしょに帰ろ!」
「現段階で帰ってるじゃないですか」
「ふふふ、そーだったね」
なにか見抜かれた気がして目線を空へ仰いだ。もう辺り一面、星だらけ。吐息は白なのに温かい。寒い筈なのに、なんなのでしょうね?この気持ちは。
それは真冬の午後6時。小さな恋に気づいた瞬間だった。