「変質者!?」
勢いづいて立ち上がるとナイフが落下。そして椅子がそれより派手な衝撃音をたてる。ぎょろりと周りの目が集中するなか彼は優美に笑み「ええ」と一言だけ発して、ナイフを拾ってくれた。僕は慌てて椅子を立て直す。
確かに彼は美人だ。けれど同性であり友達以上の感情は抱いたことはない。異性ならば惹かれただろうが…(きっと骸のことだし、男性は放って置かないから毎日愛想よく振る舞っては内心機嫌が悪そうだなあ) まあそんなことはさておき、ふむ、と脳みそをフル回転「それはどういう…」「毎日職場に送り迎え!お昼休みになった途端携帯に連絡!まったく酷い男です!」
予想を超えた変質者の行動に嫌悪感を抱く。それで骸さんも骸さんで襲われないなあ、と呑気にアイスティーをごくりと一口喉を潤す。
「正一はお巡りさんでしょう?いつも腰にある警棒少し打ち噛まして、一生僕の視界にもう入らないようにしてくれれば事が速やかに終わ、」
「らない!絶対終わらない!……きっと終わるとすれば僕の将来的な何かだろうね」
はあ、とストローをひと噛み。やれやれと眉を下げる彼に、釣られて僕も下がってしまった。蜂蜜を手に切り揃えたホットケーキにぐるりと一周。あまい匂いが鼻を刺激し、口内に唾液が露になる。
「で、どんな人?」
「やっぱり打ち噛ましてくれるんですか」
「……しないよ」
「それは残念、そうですね、僕らと同年齢くらいの真っ白い糞男で…」
「ええっ!糞呼ばわりは酷いなあ、僕の骸くんっ!」
名前教えたでしょ、ていうかまた逢えるなんて運命だね!――明らかに第三者の声が会話に混ざり合う。しかも聞き覚えがある声に思わず顔を上げた。
「っ、白蘭さん!」
ああ、僕の上司が犯人なんて、部下の僕はなんて可哀相なんだろうか。けれどそれに捕まった彼がいちばん可哀相。
「ごめん骸、この人は僕の手には終えないや」
まあ思っていた程、彼も満更じゃなさそうだと、少し青ざめた顔は無視して席を立った。これでも一応幼なじみだから解るものは解る。しかし僕の上司があんな行動をとるとは。市民に知られると反感を受けそうだと、レジ近くの無料の就職情報冊子を片手に店を出る。彼の叫び声は聞こえなかったことにして、僕は清々しい笑みを浮かべた。
(よし、転職しよう!)
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