「あの女、」

ぼそり。本当は彼に聞こえない筈だったのに背丈が違う僕等。ふと見下ろすとちらりとおおきな琥珀の瞳がこちらを覗いた。そして思う。この瞳であの女を見ていたのか、腹立たしい、その欲に遵うとどうしても敵わない(ああ、むかつく)ぎゅうっと露骨に右手でちいさな拳をつくる。

「……あのなあ 」
「否、嫉妬ではありませんから」
「じゃあこれは?」

先程の憎しみの塊が震えた(、つめたいですよ、ばか)

「手を握らないでくださ、」
「くださいってさあ、ちょーだいって意味もあるだろ?」

だから、ほら。
つめたいつめたい彼の手の平で包み込まれた。ほら、とか関係ない。くださいとねだったと仮定されているがその前にちゃんと否定をした筈だ。小言をぼやきながらも結果緩む右手に視線を逸らした。ぽかぽかと微かに温もってゆく手に感傷。


――ずっと待っていた。寒々とした空に息を吐き、彼を想い足を急がせる。ポケットを探ると金属が擦れた音(…さん、びゃくえん)
三枚の百円玉を見るや否や颯爽と自動販売機に向かって微糖珈琲とココアを購入。胸を躍らせ校門に背を預け、淀んだ空を見た。雪が降りそうだと悩内に浮かべた数十分後、彼の声がした。死角の此処からは声のみの判断から少し甘いソプラノの声も混じっており、また聞こえる笑い声。

「あれ、骸?」

校門を曲がり、こちらに気付いた隣には可愛らしい女の子の姿をみた。

「あ、じゃあね、ツナ君」

あまい甘い甘い自分には無いそれ統べてに、いつの間にか言葉を発し閉口。





「逃げたかった…なのに足が動いてくれなくて…っ、僕は……っ」

久しぶりに見る彼が微笑む。その相手が自分ではないことに女々しくなった心臓は折れた。もう零れてしまう。

「ね、骸」

ふわり。先程まで首に無かった感触に何かが巻き付いたと解る。通学バックが開いていた。

「マフラーくらいじゃあ機嫌直りませんよ」

うん、わかってる、だから――そう微笑む姿に目を奪われたのを隙に彼はマフラーを引っ張る。瞬間、前屈みになり第三者から見れば僕自身からくちづけをする形となっているだろう。

「俺にとって路ちゅーとか珍しいんだから、機嫌直せよ!ばぁか!」

人目が集まる中、この男は羞恥心は無いのかと云々。だがその男に惚れてるのは僕だ。堪らず僕は厭味混じりに躊躇無くひんやりと冷めた微糖珈琲を手渡した。








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