散る。


今まで熱を持っていた人間――彼が、それはそれは儚く風化となり自然と生きた。爪先を渇いた土に埋め、しゃくりあげる声を押し殺してそれを握り締める。すると、ここ何日、爪を切らなかった所為か奥深くひんやりと侵食。中々取れない。けれど取らないで良いと、また深々埋めた。

「正一…くん?」
「うん、いい、」

呼び止める綱吉に微笑み、目を伏せる。まるで綱吉ではなく自身に言い聞かせるように呟いた。ただただ声は出なかったものの静寂と涙が頬を伝い、土を湿らしてゆく。本当は彼の存在を無くしたくはなかった。綱吉に微かな信頼を寄せていた。矛盾だとは解っているが、死することを赦さず救ってくれる、と。

――この世界は矛盾ばかり。なにが愉しくて生きている。

「僕が、悪い」
矛盾はなにも生まない。強いて云うのなら焦燥感。
「確かにあの人は人間として最悪だったのかもしれない」
けれど解ってほしい。
「恋人としてはどうだった…そうですね、例えば、ねぇ、骸さん?」

眼鏡越しから見えるエメラルドの瞳から、綱吉の琥珀の瞳に、また違った色が混じり揺らいだ。確か数年前に綱吉と骸は付き合っていた。だからだろう、十年前の綱吉は未来を知らない。揺らぐ瞳。決意で煌めいていたのに、淀んだ。

「入江正一、それは禁句と言った筈ですが」
「僕が知ったことじゃないですよ」
「ああそうですね、あなたは白蘭の元恋人でしたから」
「……よくご存知で」
「ええ、彼も彼なりに関係上いろいろと悩んでいましたし」

――厭味ですか。
ぽつりとふたり同時に開口。秘を曝された骸は構うことなく足を踏み出す。綱吉を通り過ぎ、僕をも通り過ぎた。幾ら風が心地好くとも、鈍よりとした雰囲気を割くことは出来ない。己が悪と定めた者が亡くなったとて世界中の誰もが嬉々するものでもない。
ましてや、彼は、もう、

「……白蘭」

後ろ姿じゃはっきりと表情は読み取れない。しかし、靡く髪に、吐かれた吐息に、泣いているのだと伝える脳は重みを感じた。

「なんだかんだで貴方は愛していたんですか」
「、愚問ですね」

砂独特の音が流れる。骸は彼と云う土を僕と同様に湿らせた。曇天の天が知らす、後に雨が降る、と。

ああ、そろそろ爪を切ろう。
彼に縛られるのは骸だけで充分だと悟る瞬間だったから。

もう、僕は、―――








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