ハレム企画 外伝(名前変換) | ナノ
=ローと后=


明日の夜は、月が満ちる。三度目の満月の夜を、**は畏れと緊張と期待をもって迎えようとしていた。

世継ぎを此の世に送り出し、正式に后となって早三月。慣習に則り、閨から遠ざけられた日々は明日で終わる。身分高き者には珍しいことには、我が子を片時も側から離さず、時折は乳すら赤子に与える彼女には、めまぐるしいばかりの三ヶ月ではあった。愛する男と身体を重ねなくても別段平気なのは不思議であったが、どのような想いも考えも、腕で眠る王子へと還っていく。

髪も瞳も肌も、現王をそのまま映したかの如き容貌の幼子が目に入るたび、彼女の胸中には、かつて味わったことのない感情が生まれる。それは日に日に肥大し、いつか身体を突き破ってくるのではないかと思うほどに彼女を爪先まで満たしていっていた。寵姫として鬱々とした日々ばかりを過ごしていた時には、ついぞ得られなかった気持ちの正体を、**は心の奥深いところで理解しつつあった。

「本当に乳臭い部屋だな」
「……?!」

扉の開く音とともに聞こえた声に、**の肩が大きく震えた。声の主を彼女はよく知っている。慌てて王子を寝台に寝かせると、**は即座に膝を折り、彼の手に口づけた。恭順の接吻を機嫌よく受け止めたのは、此の国の王。すなわち彼女の"夫"である。

「王、こ、今宵も御機嫌麗しく」
「堅苦しい挨拶など要らん。なあ、"后"よ」
「はっ、はい! 承知いたしました」

やり取りの後、最大に近い月明かりのもと、王はしばし無言で后を眺めた。この三月というもの、昼間は「御機嫌うかがい」という名の王の訪問は幾度かあったが、夜のお越しは勿論無かったため、**はひどく狼狽していた。大体、閨に呼ばれるとして、それは明日からのはずではないのか? なぜ今、ここに? そういった疑問は全て彼女の顔に出ていたためか、王は鼻で笑う。

「どうした? 不思議そうだな」
「いいえ。そのような」
「"夫"が"妻"の部屋に来るのに、了解が必要か?」

高貴なる蘭の姫が息をのんだと同時、王がわらった。一呼吸置いて否定の言葉を述べる彼女を制し、彼は細い手首を掴む。

「お、王……?」
「随分と、変わったな」
「っ!」

未だ張っている乳房を揉みあげてくる強い力に、思わず**は身を引こうとしたが、彼女を捕らえる腕がそれを許さない。鋭さを増した王の視線も、彼女をその場に縫いとめた。

「王、あの、此処では」
「"此処では"何だ?」
「王子が……王子が、いらっしゃいます」

**の言葉に、王は心底から愉快そうな笑みを見せ、掴んだ手に一層の力を込めたのだった。





「お、う……、も、もう……!」

心まで抉るように、張り詰めた"雄"が幾度も出入りするたび、**は白い裸体を仰け反らせて、全身で快楽を訴えている。久方ぶりだとて、全く控えたところのない行為の激しさは、忘れかけていた深い悦びを彼女に呼び戻すものだった。

「自分が誰のものか、もう忘れたのか。とんでもない、薄情者、だなっ……」
「いいえ、その、ような……」

余裕だとばかりと思っていた王の息が乱れていることに、蕩けた思考の狭間にも気付いてしまう。そうして気付いたなら尚、**の感覚は鋭敏になっていくばかり。

だが、隣の寝台から薄っすらと耳に届いてきた「赤子の泣く声」に、彼女の身体は酷く強張った。反射的に其方を向こうとして、向けないことに気付く。彼女の頬は大きな手に包み込まれ、ただ正面だけを向かされているからだ。

「どうした。此方を見ろ」
「王子、が」
「**」

支配的な響きの声音が、彼女の動きの全てを制御した。

「お前は、誰のものだ?」

痛いほどに嬲られる胸から垂れてくる母たる証の感触は、しかし今の彼女には別の感覚をもたらすだけだ。緩く優しく、しかし無遠慮に進んでくる彼の象徴は大層熱く、彼女の理性を内側から蕩かしてゆく。

「あ……、わたし、は……。んっ」
「……言え」
「王の、いえ、王だけのものにっ、ござい、ます……あっん!」

悪どい笑みとともに、最も奥の、最も柔らかな粘膜を擦る彼の動作に、彼女の身体は一際大きく痙攣した。

「よく言った」

 ――たっぷり可愛がってやる

彼女の心で、王の囁きが、徐々に大きくなってゆく王子の泣き声に完全に勝った。王が少し身を起こして側近を呼ぶ声も、もはや気になりはしない。両足首を掴まれ、思い切り広げられ、見せ付けるような体勢で奥まで挿し込まれたところで、彼女の感覚の栄養となるのみだった。

入ってきた側近に王子を連れていくよう命ずる王の声と、彼女の艶やかな声は混ざり合い、寝台を覆う薄絹を満たして、外まで容易に溢れていく。王の悪趣味を心得ている最も有能なる側近は、出来うる限り后の失礼にならぬよう(とはいっても、もう遅いのだが)、突風もかくやという素早さで王子を抱いて出ていったのだった。

「この格好で感じるのか。本当に淫乱だな、お前は」
「もうしわけ……ございませ……あっ、ん……!」
「本当に、お前は、昔から変わらないな……っ」
「おう……?」
「……変わらず、おれのものだろう?」

**の呼吸が一拍消え、次の拍に戻る。その次の拍には、見る間に瞳に水滴が溢れ。

「ロ……、ロー様っ」

彼女は、ほぼ唯一、意のままになる腕で彼の首にしがみつく。いつまでも変わらぬ愛妾に満足げにわらいかけると、王は彼女と唇を重ねた。空白を取り戻すための抱擁は、いつまでも終わることなく続いてゆく。


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「ローと后」(written by まり緒)


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