ハレム企画 未来の物語(名前変換) | ナノ
=黎明の小夜曲(セレナーデ)=


「王より**様とキラー様へ、死刑が命ぜられました。決行は今宵にございます」

 **は使者の言葉を、酷く冷静な心持ちで聞いた。まるで知らない誰かが知らない土地でこれから死ぬのだという噂話を、一方的に聞かされたような心地であった。
 使者は微かな恐怖を顔に浮かべた。彼の目の前に立つ女の蝋細工のような面差しには、何の感情も見られなかった。からくり人形のようにゆっくりと頷き、「了承いたしました」と、何者かに操られているような仕草で口を動かす。
 使者は一礼すると、そそくさと帰ってゆく。**は馬に乗り去ってゆく使者の姿が見えなくなるまで、ぼんやりと離宮の入り口に立っていた。扉に寄り掛かり空を見上げて、朝の光に目を細める。今日はお天気のよい日ですこと、と**は心の中で呟いた。藍玉を溶かして薄い板にしたのを、天一面に貼りつけたような空である。今にも割れて落ちてきそうな空を暫し見つめていた彼女は、侍女にも此の美術品のような青を見せたくなり、「リコリス、」と名を呼び振り向いた。侍女は大理石の上で倒れていた。
 女主人は驚いて傍に駆け寄る。呼吸はしているが酷く青ざめている。**は精一杯の力でリコリスの肩を揺すぶった。

「どうしたのです」

 頬をぱちぱちと叩いてやると、侍女は薄っすらと目を開けた。**はほっと息を吐いて、もう一度、「どうしたのです」と問うた。
 侍女は首を横に振る。そうして虚ろな目から涙を溢れさせていた。**は自らも顔を青白くさせて、なす術も無く侍女の涙を見るばかりである。彼女は考えた。どうして侍女はこのような顔をしているのかと。きっと悲しいのだと、彼女は思った。どうして悲しい。**は先程聞いた、王からの言伝を思い出した。誰かが死ぬのだ。誰が。

「わたくし、ですか?」



 **は自分が死ぬことについて、自分でも驚く程、何も思わなかった。
 女主人はいつまでも泣き続ける侍女に「お部屋にお戻りなさいまし」と穏やかに言うと、まっすぐに裁縫道具を収納している部屋へと向かった。室内は廊下よりも冷えていた。扉を大きく開けて光を入れる。狭い部屋の壁にはびっしりと棚が並び、布や糸などが丁寧にしまわれていた。布は畳まれ素材の種類ごとに積まれ、糸は色彩の順に並び硝子の引き出しの中で行儀よく眠っている。レース糸、毛糸などは纏めて籠の中である。
 **は其れらに目を向けることもせずに、棚の上にあるいくつかの大きな籠の内の一つに、背伸びして手を伸ばした。指先が籐籠に触れる。ず、ず、と籠が彼女の方に引き寄せられていって、底の端が彼女の居るところからも見えた。しかし重さで均衡を崩した籠はぐらりと揺らいで逆さになり、中身は彼女の上に降ってきた。
 **は目を瞑る。黒鳥の羽の髪に振ったのは、色とりどりの花であった。香りの無い平面の世界の花は舞い、部屋中に落ちゆく。
 彼女は其の一つを手に取ると、ふうと息を吐いた。糸の花は冷ややかに女主人を見守る。



 竈の火はいつになくよく燃えた。**は台所の竈の前に座りこむと、籠から一輪ずつ花を摘んでは、其の色鮮やかな花弁を灰にしていった。其の手に躊躇いは無い。真紅の身体をくねらせる炎は、入れられた花を抱きこんで倒れゆく。其の様子を**はじっと見つめた。
 全てを消さなくてはならないと、彼女は思った。其れは自身の存在だけではなく、自分の犯した罪。そして自分の想い全てと、自分がこの世に存在したという事実もである。
 一輪燃えるともう一輪。其処には義務に塗られた女の行動があるばかりである。其の義務は何処から生まれるのかと問われれば、彼女にも答えることはできなかった。白い幻想も消え失せ、今はただ炎の中。
 ふと、彼女は自分の乳白色の爪を、細い人差し指を、見た。そして其れが何故、此処に存在しているのかを考えた。ぼんやりと、白い指をくねらせるように動かしてから、何でもないような顔で、其の指先を花と同じように火にくべた。何かに当たることなく、炎はすんなりと、花を咲かせる指を飲みこんだ。
 **は其の美しい様子をじっと見ていたが、すぐに勝手に引っこんだ腕に、驚いた。指が痛む。彼女は其の指を反対の手で抱くようにして、胸元へ引き寄せた。そうして祈るような仕草の儘、目を閉じた。瞼の奥の少ししか働かぬ思考から、流れ出てくるような雫を食い止める。
 指の火傷より、獣につけられた痕の方が余程酷く痛んだ。



 星の美しい夜である。けれども風は強く、歩む女の脚に砂漠の砂が絡みついた。縺れる足をゆっくり動かしながら、**は王の使者に連れられて処刑場を目指していた。時折激しく吹きつける砂風から外套で身を隠しながら歩く**は静寂の表情である。しかし其の後ろを歩む侍女は、これから死を迎える女主人より余程青ざめていた。
 自分の最期の場所が何処になるのか、**は知らなかった。使者に連れられてゆくだけである。ただ着実に其の足は終焉と向かう。彼女は其の足を止めずに、「リコリス」と、侍女を呼んだ。侍女はびくりと肩を震わせ、「お呼びでしょうか」と呟く。其の声はあまりに小さく、女主人の耳に届いたかは分からなかった。しかし**は、侍女の言葉は元より聞くつもりは無かったようで、陰鬱の横顔を上げることもせずに、言った。

「わたくしのことは、忘れてくださいましね」

 王の使者は聞こえぬふりをして歩み続ける。
 リコリスは堪えきれぬ嗚咽に何も言葉にすることが叶わなかった。頭の中で幾度も叫んだ。何という、残酷なお方であろうか。此れ程心を掻き乱し、抉り、そして激しい愛情を覚えるような女性は此の世に他に存在するだろうかと、彼女は思った。忘れるなどということはできる筈も無い。其れを此の沈黙の花は知らないのであろうか。知らぬふりをしているのであろうか。それならば自分も、金色の獣も、或いは同じ蜜に惑わされた憐れな生贄ではなかろうかと、思った。
 そうしてリコリスは、息の続かぬ喉を押さえた。



 暫し歩いて着いたのは王宮であった。**は首を捻る。しかし、此方にございます、という使者の言葉に、彼女は素直に外套を脱いだ。そして彼女が其れを侍女に預けたところで使者が扉を開ける。
 一行が大理石の床に足をつけたと同時、エンタシスの円柱が等間隔に立つ中、暫く前を歩いていた赤髪の王子が振り返る。其の後ろに控えていた、黒布を着けていない側近も遅れて振り返った。
 薄暗い中でも分かる程鮮やかな赤のカフタンを翻し、王子は**を見遣った。獣が愛した沈黙の花は白い清潔なブラウスに瑠璃のエンターリを合わせており、王子の方を向いて動かぬ様子は、其の儘夜の闇に溶けこんでゆきそうであった。青白い面差しには様々な感情が溢れすぎて零れ落ちてしまったかのような雰囲気が見られた。
 **を見つめるキッドの目にも、複雑に絡み合い、もうどれも掬い取ることのできぬ感情の糸の塊があった。彼は顔を背けると一つ、舌打ちした。
 金髪の側近は頭を振り、髪に付いた砂を払う。其の仕草は此れから死を迎える人間とは思えぬ程穏やかなものであった。しかしながら其の表情は静かな陰鬱を宿している。音の無い動きで**を見つめた。
 二人は何も言わずに見つめ合った。其れは言葉の無い会話、などというものではなく、ただ自らの罪を各々確認するようなものであった。其の罪は互いに違うものであり、例え二人が口を開き言葉を交わしたとしても分かりあえるものではなかった。

「お二方は此方へ」

 歩きだした使者の一人に、**はそっとついてゆく。其の歩みが近づいてきた頃、キラーも其の流れに足を向けた。キッドとリコリスは動かずに、自身の側近と女主人を見つめる。薄闇の中で金髪がやけに目につく。そうして王子と侍女は気がついた。キラーのカフタンも夜空の瑠璃色であった。薄闇の向こうの獣と、沈黙の花。底の見えぬ闇へ向かおうとする二人を、残された二人はじっと、見た。
 しかしキラーは急に歩みを止め、自身の仕える王子を見遣った。長年の主従、そして友人二人は、何も言わない。側近は跪き頭を垂れる。静寂の後、王子は言った。

「行け」

 其の言葉にキラーは一瞬、笑った。切ない笑みであった。口角を微かに上げただけであったが、キッドには分かった。自分をまっすぐ見上げる目に、彼は何も言えなかったのだ。



 此れは何かがおかしいと、キラーは思っていた。彼は目だけで室内の様子を見た。彼が今まで見たことのない部屋であった。しかし時折使われてはいるようで、塵などは見当たらぬ、清潔な部屋である。単なる私室の一つのようであった。彼はくすんだ薔薇色の絨毯の上で王を前にして跪き、自らの組み立てた一つの仮説を思った。其れは王宮に案内された時点でもう微かに浮かんでいた思考であったが、此処まで来ていよいよ本物となった。其れは彼の後方で壁に寄り掛かり俯く王子も同じ心持ちであった。対して、侍女は相変わらずぐずぐずと壁際で泣いているし、当の**は何も考えていない顔であった。キラーは眉をひそめた。其の疑問は目の前で悠々とした態度で腕を組む王にも伝わったらしく、彼はそんな顔をするなと、片頬だけで笑った。
 毛足の長い、絨毯の上で跪く青年は、王の隣に控える側近を見遣った。彼の腕には大きな蓋付きの籐籠がある。其れを目を鋭く細めて見遣った彼は、様々な考えを巡らせながら俯く。隣で俯く女は動かない。

「“処刑”を始める」

 王は俯く二人に何とも言えぬ、沈痛な面持ちを向けた。しかし其れを王子は見逃さなかった。彼もまた目を閉じ、音の無い微かな、嘲るような笑みを見せる。
 王が腕を振り上げる。キラーは静かに目を閉じ、罪の終わりを待った。
 しかし二人の頭上に落とされたのは、刃ではない柔らかな感触であった。
 キラーは目を見開いて頭を上げた。視界を白いものが覆っている。布であった。彼が顔を上げたせいで其れが絨毯の上に落ちる。其れは白い絹に金糸で三円紋の入ったカフタンであった。

「王、此れは」

 呟くような声が響いた。後方ではキッドが其の様子を静かに見遣り、リコリスは動けずにいる。
 キラーを見下ろす王の目には、眼前の二人を蔑むような色と、哀切の色の二つが見られた。キラーは次に、自分の隣を見遣る。**は膝をついたまま、呆然としている。其の頭には金色で唐草が刺繍された、同じく絹の白布が被せられていた。

「**、お前は死んだ。俺は死人などいらん。キラー、お前にやる」

 王は、其れで満足かと問うた。キラーは働かない頭で言葉を紡ごうとしたが、口を微かに開けた儘である。彼らの後方で扉の開く音がし、緩やかな風が獣の金の毛並みと花の黒髪を揺らし、白布は床にずり落ちた。**が其の白を、そして刺繍を視界に入れた瞬間、彼女はやっと、王を見上げた。風に乱れる髪も其の儘に、焦点の合わぬ目で自身を見つめる女に、王は苦笑した。そうして扉の方を見遣る。

「もう始めていたのか」

 **の肩が震えた。其の声は後方からよく響いた。彼女にとっては酷く懐かしい声である。忘れる筈の無いものである。彼女は震える体で振り返った。

「……王……」
「おいおい、俺はもう“王”じゃないぞ」

 外套を翻しながら、先王は笑った。開けた儘の扉から外の砂風のごうごうという音が聞こえてくる。
 無言で腕を組むキッドと、驚きで固まっているリコリスの間を足早に通り過ぎ、彼は自身の「寵姫」の方へと向かってゆく。絨毯に座りこむ**、其の隣で自身を見つめるキラー、そして其の奥に立つ、酷く冷えこんだ表情のローに、先王は苦笑混じりの小さな息を吐いた。
 先王は、ぼやけた暗い瞳の女の前にしゃがむと、二つの菫青石を見た。長い間、少なくとも年単位で数えねばならない時間を置いて久々に見た物憂げな光は、彼の記憶に僅かに残る其の儘の色であった。そうして、此の色を留めるように、彼女の時計の針を止めてしまったのは自分だと、思った。先王は優しい顔で笑う。

「**」

 其の声に、塞き止めていたものが急に無くなったかのように、**は俯いて泣きだした。大粒の水晶の欠片が、ぼろぼろと零れる。先王は女の姿を、何を言うわけでもなく、ただ静かに見つめた。
 ふと、冷静な光が獣の姿を捉えた。涙する花をじっと見つめていた彼は、其の視線に、まっすぐな、けれども困惑と様々な思いを込めた目を返した。其の瞬間、先王の顔から笑みが消えた。決して、青年への悪意からくる感情ではなかった。しかし、其の重いような、鋭いような眼差しに、キラーはただ口を結んで目を合わせるばかりであった。
 先王は沈黙の花に向き直る。そして涙で赤みの差した頬に手を添えて、自分と目が合うようにさせた。

「すまなかった」

 涙を溢れさせながら、**は目を閉じた。しかし閉じられてもなお、目尻からは新しい水が生まれ、下睫を濡らして頬を伝った。彼女はゆっくりと、しかし確実に、首を横に振る。
 そんな様子を見ていた王は、何も言わずに其処から歩きだした。黒髪の側近も続く。先王は横を通り過ぎる二人を咎めるでもなく、目の前の女を見つめた。
 彼は一度口を開きかけて、やめた。言葉は誰に聞かれるわけでもなく消えていった。そうしてふと、小さく笑って、もう一度口を開いた。先王は自分を見つめる青年に目を遣る。

「行け。**を連れて」

 そう言って二人の表情など確認せずに、後方で壁に寄り掛かっていたキッドに笑う。

「いいだろ?」

 王子は何も言わないが、先王は彼の反応など初めから気にしていない。全てとはいわないが、分かっているからである。先王は次に、如何すればよいか分からず後方で座りこんでいた侍女を手招きした。

「リコリスは俺と来い。給仕が足りないんだ」

 其の言葉に侍女は目をかっと見開いて、身体をわなわなと震わせた。涙も出てこないようであった。先王はそんな姿に、静かな目を向ける。

「キラー」

 促すような声に、名を呼ばれた青年は立ち上がった。白い衣装を掛けた右腕を、座りこむ女の背に回し、左腕を膝裏に差しこみ抱き上げる。
 彼に抱き上げられたことに、**は表情を変えなかった。呆然としたような、暗い、闇の瞳は水晶の雫に濡れていたが、もう止まっていた。頭上に掛けられていたエンターリが動かない彼女を包む。絹を縁取る金色が光った。
 彼は部屋から出ようと振り返り、歩きだす。しかしどうしても、赤の王子の存在が視界を占領していた。キラーは苦く曇った表情で足を止め、彼に向き合う。
 キッドはキラーの腕の中の存在を一瞥して、舌打ちをした。そしていつものぶっきらぼうな口調で言う。

「其の女置いたら、俺の部屋に来い。あと五発くらい殴らせろ」

 其の言葉に側近は目を伏せ、「すまない」と、言った。キラーの答えに鼻で笑って、王子はさっさと背を向け部屋を出てゆく。キラーは「友人」の姿に、懇ろに礼をした。
 先王は其の光景に一つ息を吐いて、静かに身を翻す。



 廊下を渡り、キラーは外に出た。其の間腕の中の女は動かなかった。目は閉じられている。けれども眠っているわけではないのは、彼は分かっていた。
 突然「妻」となった女に、彼は何と言えばよいか、分からなかった。彼でさえ両手放しで喜ぶなどということはできぬ心情である。此の女ならば余計思うものがあるだろうと、彼は溜め息を吐いた。
 砂漠は強い風に、其の砂を酷く散らしては呻くように鳴いた。不気味な音である。其の中、男は腕の中に、先程王から下賜された婚礼衣装で女を包み、まるで重要な贈り物でも運んでいるかのような仕草で彼女を抱き、歩いていた。
 金髪を風が乱す。不快な風音が彼の耳を掠めゆく。

「お降ろしになってくださいまし」

 彼は一瞬、聞き違いかと思った。しかし腕の中の女は、伏せてはいるが、目を開けていた。人形の如き無表情である。夜目にも分かる青白い頬。
 彼は跪くようにして、女の足の方にある腕を下げ、天鵞絨の靴を砂の上に降ろしてやった。すると女は、自分を包んでいた白い衣装をゆるりと取り払って、腕の中に抱いた。はためく白布に咲く金の花が形を変え煌く。ゆっくりと彼女が振り返ると、目線の先に王宮があった。もうだいぶ離れていた。
 男は女の後姿を見つめた。王が彼女を自分に賜った瞬間から、彼女はもう王宮の人間ではなくなったということに、彼は目を伏せた。
 女は暫く王宮を見つめた。そうして懇ろに、礼をした。其れは「先王の寵姫」に相応しい、高貴さの滲み出る、美しい礼であった。彼女は顔を上げない。泣いているのかも知れなかった。男は目を閉じた。見るべきではない、と思ったのだ。どれ程の時間であっただろうか。男には余程長く感じられた。
 ふと、風が止んだ。

「キラー様」

 小さな声であったが、彼は聞き逃さなかった。男は目を開ける。

「……**」

 目の前に、女が立っていた。もう彼にとっては見慣れた花であったが、それでも美しかった。今にも泣きだしてしまいそうな頼りない姿は、少し目を離せば闇に攫われてしまいそうであった。**は婚礼衣装を抱きしめて、キラーの目を見た。其の表情には俄かに不安が感じられた。

「わたくしで、よろしゅうございますか」

 其の瞬間、菫青石に確かに自分の姿が映ったのを、彼は見た。
 闇の中であえかに瞬く光であった。其の揺らぐ光を前に、キラーは微かに口角を上げた。
 風が唸り声を上げて舞い上がる。其の闇に彼女の姿が飲み込まれる前に、キラーは**の腕を引き抱きしめた。彼の耳に息を呑む音が聞こえた。彼は大きな手で女の後頭部を支えるようにし、全身で其の華奢な身体を風から庇った。
 二人は暫しそうした儘動かない。けれども風がまた止み、其れを感じた**は、そっと身じろぎした。しかし彼女を包む腕の力は弱まらない。離れない。更に強まってゆくような心地さえ、彼女は感じた。青白い頬を、ほろほろと、自然と溢れ出た雫が伝う。しかし其れは瑠璃の中に吸い込まれてゆき、彼女が其の水に溺れることは無かった。
 仄かに揺らぐ砂漠は、相も変わらず泣いている。けれども空には、そんな地上には不似合いな程の大粒の星が瞬き、細くはあるが月も掛かっていた。
 今宵は新月である。



そうして花は返り咲き
   新たな華を香らせる



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「黎明の小夜曲(セレナーデ)」
  (written by つぐみ/juvenile)


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