ハレム企画 未来の物語(名前変換) | ナノ
=青空の追複曲(カノン)=


なぜ、閉じ込められているのか。その理由を**は全く知らなかった。

尤も閉じ込められているとはいっても獄に繋がれているとか、そういう物騒なことではない。自室から出してもらえないだけなのだ。窓には格子がはめられ鎧戸が下ろされ、ルフィ王子の来訪は完全に遮断されている。おそらく、ルフィ王子との逢瀬が(逢瀬と呼べるほど甘いものではないのだが)王の疳に障ったとか、そんな些細な理由なのだろう。薄暗く気だるい空気が立ち込める部屋で四六時中見張られ、いつ出られるとも知れぬまま、ただ彼女は王子の向けてくれた太陽の笑顔の記憶をよすがに日々を暮らした。「成人したら一緒に旅へ」。戯言めいた約束だけが、彼女を正常に保っていた。

彼女の軟禁は月のものが来るまで続き、身体が赤い液体を流さなくなる頃ふいに終わった。解放された後、訳も分からぬまま身を清められ、飾り立てられて、彼女は王のもとへと捧げられたのだった。





とどのつまりは「惜しくなった」の一語に尽きるだろう。

確かに一度は、彼女、**がルフィと相愛であれば、古くからの慣習に則り、自分がそうされたように初めての契りの相手として与えてもよいと思った。自分の寵姫になりたがっている女など幾らでもいるのだから、別に彼女一人が減ったところで全く構わないと。だが、陽の申し子のように笑う弟を見るたび胸に湧いてくる思いは抑えがたく。

ルフィが悪いのではないのは分かっている。彼が、本当に無邪気に自分を慕っているのも知っている。密偵からの報告で、二人の間に何の艶めいたものもないことさえ把握しているのだ。混同するなと、憎むべき相手を見誤るなと、この女はまだ"あいつ"のようには裏切ってはいないと告げる心の奥底、冷静さと呼べる部分がべたついた闇を徐々に薙ぎ払っていき、最後に彼に残ったものは弟に対する複雑な愛情と、女に対する単なる執着心と、ほんの少しの情だった。

「あ……、王っ」
「どうした?」
「そこ、は」

夜着を取り払うことすら惜しむごとくに彼女が王に愛され始め、どれぐらいの時が経ったのだろう。元々淡白な営みではなかったが、今日は特に酷いと**はどこか麻痺した頭で感じていた。口ごたえなどしたら首でも絞められそうなほど切羽詰まった抱き方だと思うが、彼から漏れる焦燥感がどこから来ているのか彼女は知らない。何せ知る隙は与えられていないのだ。

だが粘着な抱き方とは裏腹に、目を合わせるたび髪や頬や耳朶を撫でてくる王の手つきが優しいことが、彼女の心をかき乱す。こんな優しい王は何時ぶりだろうと軋んだ頭で考えるが、とんと思い出せそうにないのは、そうだ、今までになかったからだと思い当たった。心はルフィ王子に大きく傾いていてなお、握れば握り返してくれる王の手の大きさは彼女の虚しさを一時満たした。

「黙れ」
「お、う……?」
「お前は黙って抱かれていればいい」

 ――これからもな。

王の言葉に絶望と歓喜を同時に胸のうちに感じながら、彼女は何度も上り詰めては落ちた。幾夜か続けて複雑な心のまま抱かれた次の月、彼女は自らの身体に血の流れを見ることはなかった。





触れる手が優しいのも、見詰めてくる瞳が柔らかいのも、多分。


"あの事"があってこの方、繁殖期の獅子のようであった彼が、近頃めっきり穏やかになったと周りが胸を撫で下ろしていることを**は知っていた。閉じ込められている間に起こった出来事を想像するに背筋の辺りが冷えるが、もう"終わった"ことだ。

青空の下で生きていくことは叶わなくても、満ちた月は十分に明るい。砂漠において行く末を照らすものとしては、これ以上ないものであることを彼女は知っている。だが――。

「何か要りようなものは、あるか?」
「いいえ、頂いているもので十分でございます、王」
「そうか。……**」
「はい」
「……労われよ」

頬に伸ばされた手は大きく、だが冷たかった。触れたこともない"あの手"は、きっと温かいのだろうと思う心に蓋をして、**は王の手に自らの両手を重ねる。

太陽を恋しがることが、花にとって禁忌であるはずがない。だが、それが赦されないのがハレム。とりどりの花が咲き乱れる無上の楽園には、しかし、冷めた光をよこす月しか存在しないのだ。時折動く腹に頬を寄せる王の深い色の髪を撫でながら、彼女は息を吐き、静かに目を閉じた。



そうして花は実を結び、
  何時かの時を繰り返す



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「青空の追複曲(カノン)」
  (written by まり緒)


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