ハレム企画 未来の物語(名前変換) | ナノ
=昼下がりの前奏曲(プレリュード)=


神話の昔、世界を創りたもうた神が一つの国を均等に二分したとの言い伝えが残る"兄弟国"。その片側の国の第一王子は、機嫌よさげに王の隣で杯をあおっている。彼の国とは遠い昔に戦争をしたことも伝えられているが、天が怒ったのか、途方もない大災厄に襲われた二つの国は、それ以来手を取り合って砂漠を統治するに至ったのだという。つまりは同盟国なのだ。それも大層仲の良い。

互いの王子たちを留学させることも常である二国では、王子たちの行き来は頻繁だ。今回も世継ぎの第一王子と第二王子揃っての御来国とくれば、宴の間では常より絢爛な催しが行われるのだ。

昔から気が合っていた二人、こちらの第三王子ルフィと、あちらの第二王子エースは何が楽しいのか盃を持ったままじゃれあい、笑い、周りの者など目に入らぬといった風情で再会を喜び合っている。その光景を横目で見て笑う王に、第一王子が微笑みかけてきた。

「あいつらは本当に仲が良いなあ? ロー」
「兄弟同然だからな」

第二王子が留学してきた際、一緒に過ごした日々が相当楽しかったらしいルフィは、ずっと笑顔のままだ。年の離れた実の兄弟よりも、近しい年齢の彼と学び(実際サボっていた方が多いのだが)、遊んだ日々を未だに忘れていないと見える。

「あの阿呆、成人したら旅がしたいんだと」
「ははっ、ルフィらしいな! とりあえず、うちに留学でもさせておいたらどうだ」
「考えてはいる。まあ、その時は頼む」
「勿論さ」

空になった盃を互いに足し合って、飲み干す。何かを約束するとき、いつも二人はそうしていた。王と王子、立場は違ってしまったが、彼らも負けず劣らずの友情めいたもので結ばれてはいるのだ。

「ところで、聞きたい事があるんだが」
「?」

大きな彼の瞳が、悪戯な輝きを湛えて宴の間を見詰めていた。視線を追えば、そこには。

「"あの"娘」
「"あいつ"が、どうかしたか」

忙しそうに立ち働く、華奢と呼ぶにも申し訳ないほど痩せぎすの娘を指し、第一王子サボは言ったのだった。あくまで礼儀正しい風を装いながらも、直情を隠そうともせず、至って爽やかに。

「あの娘が気に入った。おれにくれないか?」

王は瞬間固まったが、「そうだ、こいつはこういうやつだった」と心中密かに合点し、つい笑った。

「あの娘は――」

響き渡る銅鑼が王の返答をかき消したが、第一王子にははっきりと聞き取れたのだった。





案内役の侍女に先導され、**は王の寝室へ続く回廊を歩んでいた。一歩一歩が、重い。それは決して衣装や髪飾りや装飾具のせいではないことを彼女はわかっている。慇懃に変わった、かつての侍女仲間たちの態度。カトレアをはじめとした幾人もの寵姫たちの眼光。「視線で殺せるものなら殺してやりたい」と、寵姫たちが視線に込めたものの歪みを感じて、彼女は深い深いため息をつく。

本来なら誰とも争いたくなどないのだ。ずっとずっと、この花園で咲き誇る花たちの世話をして、気紛れな蝶に仕えて、ただ衣食住の心配をせず暮らしていたかった。このまま、ずっとこのまま。

 ――違う。ほんとうは、私は…。

理性の奥底で本能が声高に否定する。このままでは後悔すると思ったから自分は"彼"に想いのたけを告げたのだ。自らさえも騙そうとした女の性、浅はかな欺瞞をわらうと、ほんの少しだけ心が軽くなった。だから、侍女が扉を開けたときも震えずにいられたのだが。

広くとった窓から、いかなる天の計らいか赤く染まった弦月が見える。だが禍々しいはずの光景も彼を彩る背景画にしか見えぬと思えたのは、かりそめながらも王に忠誠を誓った心からであろうか。よく着る派手めの衣装ではなく、正装に近いような真白い服も、彼という存在を引き立てていると素直に感心した。いつもそうであればいいのに。そう考えてつい笑いそうになるが、王のついぞ見せぬ真剣な眼差しに彼女は息をのみ、慌てて唇を引き結ぶ。

彼は無表情、かつ無言のまま彼女に手をのべる。ただひと言「来い」という低い声の命令に、**が逆らえようはずもない。今になって震えてきた足を必死に奮い立たせて、彼女は王のもとに歩み寄った。亀の歩みに焦れた素振りも見せず、至極真面目に――これは仏頂面と呼ぶべきかもしれないが――**の手をとり、王は自らに強く引き寄せた。片方の手で彼女の腰を抱き、もう片手では頬を撫でる彼の手は、熱い。

「来たな」
「は、はい」
「**」

呼ばれた自分の名前に素直に「はい」と返事をすると、彼は、お世辞にもあまり人がよいとは言えぬ笑みを向けてきた。ああ、いつもの王だと彼女が思った時、彼は唇を彼女の耳に寄せ、こう囁いたのだった。

「お前を、他の男に"やる"ことに決めた」

音は聞こえても、言葉の内容は**の耳には届かない。驚きを通り越して虚無に襲われている可愛らしい女の表情を瞳に焼き付けると、王は楽しげに彼女を抱き締め、そして――。



そうして花は手折られて、
  真の主を待ちわびる



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「昼下がりの前奏曲(プレリュード)」
  (written by まり緒)


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