ハレム企画 未来の物語(名前変換) | ナノ
=黄昏の子守唄(ララバイ)=


謹厳実直なる側近の進言は、大変唐突なものに王には思えてならなかった。それ故、王は不愉快を隠そうともせず形よい眉を寄せ、盛大な皺を眉間にこしらえている。察するに皺の意味するものは"あんな事"があったのに何をか言わんやこの野郎、というところであろうか。だが、王の殺気すらこもった眼差しを向けられても側近は一寸も怯まず、涼しげに整った表情を崩すこともない。何せ、この手の悋気には慣れっこであるからして。

「そろそろ、"頃合"かと」

不機嫌を絵に描いた表情をしながらも、王はこの側近の言葉には耳を傾ける。彼が、彼の母と同じく、自分に絶対の忠誠をもって仕えていることがよく解っているからだ。小国から恭順の意で差し出された姫など、ここには数多くいる。手折るも手折らないも彼の判断一つに委ねられてはいるが、征服という意味で言えば、形ばかりでも一度は抱いておく必要があることは彼も心得ていた。

「……ふん」

特段異を唱えることなく鼻を鳴らした王を、側近が肯定の意味合いで捉えるのはいつものこと。恭しく頭を下げる彼を一瞥し、王は口を開いた。

「一度会ってからだ。それから"決める"」

"あの事"があってから始終神経を逆立てていた彼が、ようやく見せた愉しげな笑みに、側近は心中ひそかに胸を撫で下ろした。邪悪と呼べそうな何かが笑顔に含まれていたことには、この際、見て見ぬふりをしたのだった。





長い廊下を、無意識に足音を消して歩く。そうすることが王の癖であり、また性質のよろしくない趣味でもある。音と同時に気配も失くして歩けば、大抵の闇夜では面白いものが見られるからだ。――ほら、今夜も。

慎ましやかな色の衣を羽織った、未だ少女の線の抜けぬ女が廊下の片隅で外を眺めている。熱すぎると言っても過言ではない彼女の瞳の輝きを追えば、そこに瞬くのは無造作にばら撒かれた無数の星々のはずだが、皓々とした月明かりのもと、星々は酷く薄い光しか放ってはいない。端的に言えば情緒のない夜空。籠の中の鳥には、変わり映えのしない空を見ることも娯楽の一つなのだろうと彼は合点し、しばらく女を観察することにした。彼女こそ、有能なる側近が「寵姫に」と薦めてきた者だったからだ。

彼女の瞳は夜空を彷徨い続ける。王には彼女の瞳が湛える色に憶えがあった。あれは此処ではない何処かを夢みる者の瞳だ。すなわち、囚われたままでなお、心だけは天駆けている者の瞳。人の心の機微に敏い王は瞬間的に苛立ちを覚えたが、すぐ心よりの笑みを浮かべる。支配者特有の愉悦に満ちた笑顔を。

上体を前傾させて本格的に空を観察し始めた女に、少し大回りして背後から近づき、王は声を発した。

「なにを見てる」

王、と、体が跳ね、上がった女の声は砂の王国に似つかわしくないさも清清しいもので、彼の興味を萎ませることはなかった。

 ――しばらくの間、暇がつぶせそうだ

心で呟くと同時に王は笑う。部屋に戻ると同時、待ち構えていた側近に実に上機嫌に言い放った。「"贈物"を用意しておけ」と。





結論から言えば、彼には気に入りの寵姫が一人増えたことになる。

熱の篭る閨で、向かい合った状態で抱く女をじっと見詰めれば、彼女は何も言わず微かに目を逸らした。彼は、その行為が恥じらいという理由だけから来るものではないことを知っている。だからこそ深い悦楽を感じ、彼女との情事の中での香辛料とできることも、よく解っているのだが。

彼女の腕は彼の首に回され、無駄な肉の一切付いていない、しなやかな腰が、どこか爽やかさを漂わせる外見とは裏腹に彼の肉を咥え込んで丁寧に、淫靡に蠢いている。彼は自ら仕込んだ"女"の出来のよさに満足げにわらった。

「**」

終焉。彼が深く突き入れ、少し掠れた声で腕の中の女の名を呼ぶと、女は心得た仕草の中にも微量の逡巡を宿しながら、しかし逆らうことなく彼の唇に己の柔い薄桃を重ねた。そして彼の濡れた粘膜を優しく食み、入念に吸う。愛する男にそうするように。

細い腰を掴み、彼は自らの熱を解放させた。鼻に抜ける艶めいた女の声が、彼の絶頂をより深いものとする。上下の粘膜ともに絞られていく感覚に軽い酩酊をおぼえつつ、しばらく彼は身体を繋げたままでいた。花を散らしたばかりの頃、精を放たれるたびに跳ね、逃れたがる素振りすら見せていた女の身体は、今――。


そうして花は摘み取られ、
  幼年期に終わりを告げる



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「黄昏の子守唄(ララバイ)」
  (written by まり緒)


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