ハレム企画 過去の物語(名前変換) | ナノ
=王子ルフィと第二の寵姫=


語学、数学、経済、果ては軍事や国家戦略の話まで。専門の学者たちから日ごと繰り出される講義は彼の心を全くと言っていいほど捉えない。先王も教えていたという総白髪の学者が話す見知らぬ土地の習慣だけは彼の興味を引いたが、白髪の学者は基本フィールドワークで忙しい人間だった。毎日来られるわけもない。よって彼は今日の講義からも逃亡を図ることにしたのだった。

彼の逃げ足は速い。この奔放極まりない息子の行動を熟知している母が差し向けた追っ手達すらかわし、あっという間に王宮の奥へと到達した。ちょうどよい具合に強すぎる砂漠の陽も陰り、近くには身を隠すための茂みもある。柔らかな葉を掻き分けて少年らしい体躯を茂みに沈めると、彼は遅い午睡をとるべく瞳を閉じた。





**は、王の閨に呼ばれる以外の時間を、主に歌舞音曲の技を磨くことに振り分けていた。他の寵姫達に比べると圧倒的に足りない教養と礼儀作法を学ぶことにも熱心であったが、王が自分を召し上げたのは主に踊りが秀でていたからということは自覚していたので、自然と長所を練り上げる時間が増えるのだ。それに自らも納得できる踊りを披露したときに向けてもらえる王の笑顔は、何よりも誇らしいものだった。明日の宴でも、あの笑顔とお褒めの言葉を頂くことができるだろうか。いや、頂いてみせる。自分が少しでも失敗めいた動作をしたときの"あの女"の勝ち誇ったような微笑みを思い出すと、何が何でも失敗するものかと**は決意した。気は抜けない。"あの女"の長所、つまり"武器"も自分と同じなのだから。

晴れぬ心のまま窓枠に手を掛けて、真円の月を眺める。なんと明るい月夜! 今日呼ばれているのはきっと"あの女"だろう。気にせぬよう努めてはみるが、どうしても意識は王に向かっていってしまう。だがそれは道理なのだ。ここはハレム。王以外に気持ちを向けることなど許されようもないのだから。

巡り巡る薄暗い思考を少しでも寸断しようと、彼女は花の唇を開いた。静かに織り出されていくのは彼女の故郷の恋歌。他愛も無い歌であったが、歌っていると奇妙に心が落ち着くのだ。男女が出逢い、逡巡しながらも恋に落ち、最後に唇が出会うという、戯れ歌。

「へーっくしょいっ!」

密やかな歌を盛大な"音"にかき消され、**の体はびくりと跳ねた。響いた硬い声は女のものではない。つまり不法侵入者。それも、男だ。

「だっ、誰?!」
「お前こそ誰だァ?」

がさり。窓の下の茂みから目をこすりこすり出てきたのは、一人の少年だった。**はその顔に見覚えがあった。宴の間で、王をはじめいろいろな男たちと打ち解け、楽しそうに話していたその少年は。

「ルフィ王子!」
「あ、お前、こないだ踊ってたヤツだろ。おれ、覚えてるぞ」

にししと邪気のない笑みを見せ、窓枠にもたれてくる少年に**の肩の力が一気に抜けた。不法侵入とはいえ彼は王族、それも成人前ときては、特に警備の者を呼ぶ必要も感じられないと判断したからだ。ただ不躾なことには変わりない。ごく儀礼的な笑みを見せるのは、ハレムに入って覚えた礼儀だった。

「私のような者をお心に留めて頂いてありがとう存じ……」
「なァ、今の歌、お前のか?」

儀礼を遮る彼の質問に、**は面食らう。よく見れば葉や泥の付いた髪の毛が、所々彼のターバンからははみ出していた。無邪気な彼の様子に警戒心は薄れていく。「ええ」と返すと、彼は笑った。

「お前、歌うっめぇなぁ! おれ、あんな歌聴いたの初めてだ! また聴きてぇなぁ。歌えよ。なっ?」

月夜であるのに、どこか青空を連想させる笑顔に瞬間目を奪われ、**は困惑しながらもつい頷いたのだった。

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「王子ルフィと第二の寵姫」(written by まり緒)


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