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=王の側近ペンギンと侍女=


我が王は誇り高く才気に溢れた、己の一生を賭して仕えるにふさわしい男である。そして、かなり気紛れな性質でもある。この特色はありとあらゆる分野において発揮されており、王としての最大の務めの一つ"世継ぎをつくること"という点でも例外ではなかった。最近ではお気に入りの寵姫も何人かはいるようだが、彼にとって"面白い"相手でなければすぐに興味をなくしてしまうのだ。いまだ世継ぎがいないのも、この食い散らかし方では仕方ないともいえる。

王の乳母、つまり自分の母の口から折に触れて出てくるのは「王にも、また心から愛する御方が現れればよいのでしょうけれど」との一言とため息ばかり。暗に「今はそういう女性はいない」ということなのだが、その"理由"をよくよく知っているペンギンは、彼女のため息に積極的に返答はしなかった。優しい母の願いを叶えてはやりたいが、そうそう旨くいくはずもない。王の"想い"は未だ死なず、"彼女"と共にあるのだから。

熱砂と微風の中、彼が足を向けたのは城下にある市場の奥。国内国外問わず奴隷として売り払われた、またはさらわれてきた女たちが商品として並ぶ、いわゆる奴隷市場だ。彼は冷徹な眼で"商品"を物色する。身分を問わず、少しでも王の興味を引きそうな娘を探すのが、彼にできる、王の心を傷つけずに世継ぎを得るための最良の手段に思えてならなかったからだ。彼とて、いつも王に寄り添っていた"彼女"を忘れたわけではないが、メランコリィに浸っていられるほど彼は側近としては無能ではない。

今日も市場は活況を呈している。檻に入れられ軒先に並べられている、年端もいかぬ双子の姉妹や、粗末な台の上で扇情的なポーズをとる薄物のみを纏った女などが哀しげな彩りを添える中、多くの男たちは鼻の下を伸ばして行き交い、自分好みの女を手に入れるのだ。

一緒に来た供の者たちは外で待たせて、彼は母によく似た種類のため息をつきつつ、やけに豪奢な建物を選んで入っていった。





「ええ、どれもこれも最近入れたばかりでしてねえ。ご存知だとは思いますが、うちは極上の"モノ"しかおりませんので勿論…」
「少し黙っていてくれるか」

ぴしりと言い放つペンギンに、恰幅のよい店主は即座に口を引き結んだ。この店の主の選んでくる女は氏素性のはっきりした見目もよい者が大半だったので、ペンギンはよくこの店に物色しに来たが、商売柄か店主の喋りすぎることには毎度辟易している。

眼前の檻の中には手足を枷で繋がれた女たちが、ひいふうみい、10人はいるだろうか。元はなかなか美しいのだろうが憔悴しきった面持ちの女が多い。それは当たり前のことなのでさして気にせず、彼は"商品"を値踏みする。

どの女も彼と目を合わせようとはしない。よしんば合ったとしても、すぐに目を逸らしてしまう。覇気のない瞳をした女の多さに苛立ち、収穫の無さは諦めて帰ろうとしたときだった。檻の奥、ひやりと薄暗い隅に、痩せこけた体が見えた。座ったまま両腕で脚を抱え、顔は俯かせている。眠っているのだろうか、はたまた我が身を憂いて泣いているのだろうか。小さな女の姿から何故か目を離すことができず、必死で口を噤み続ける店主に向き直り、隅を指差してペンギンは尋ねた。

「あの女は?」
「おお、さすが側近筆頭の方だけはありますなぁ! いやいや御目が高い」
「どんな女なのか聞いている。端的に答えろ」
「は、ははっ! そこな女は**といいまして」

可憐な名前が口に上った途端、女が顔を上げた。他の女同様やつれてはいるが、整った容色だ。諦めに似た表情で店主とペンギンを見つめる彼女の眼差しは、周りの女たちとは違って理性を宿しているようにペンギンには見えた。その光が何に由来するのかは分からない。だが面白いではないか。このような場所でも失われない煌きなどとは。彼女から目を離さぬまま、彼は口を開いた。

「仕立て屋の娘でしたからね、え〜え、裁縫もお手の物ですとも」
「売ってくれ」
「ましてあの容姿ですからね、実はお貴族様たちからもお声……えっ?!」
「売ってくれ、と言っている」
「かっ、かしこまりました!」

樽腹を揺らして台帳を取りに行く店主の様子は何時見ても滑稽だ。つい噴き出したペンギンを、野の花の名前持つ女はほんの少しだけ目を見開いたまま、暗がりからずっと見据えていた。

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「王の側近ペンギンと侍女」(written by まり緒)


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