ハレム企画 過去の物語(名前変換) | ナノ
=先王シャンクスと乳母/後編=


 ――あの時と同じ言葉を、彼の腕の中で幾度聞いただろう。

絡められた手を振り切れぬまま、彼女は今夜も王に抱かれる。だが時折錯覚するのだ。抱いているのは自分の方ではないかと。彼女の情けを懇願し、震える声で何度も名を呼び、すがりついてくる男を、どうして突き放すことなどできようか。

「王、もう……おやめ、に」

焦りを宿した声色に、彼が愛撫を一旦やめて彼女の頬を包むように撫でた。

「どうした?」
「おうじ、が……」

隣の寝台で安らかな寝息を立てる"我が子"をちらと見遣り、彼は縺れた**の髪をかき上げる。そうして露わになった額に一度キスをすると、彼は彼女の豊かな胸に顔を埋めた。片方の胸をまさぐり、片方の胸に舌を這わせて乳首を探り当て、口中に含むのはまるで赤子の仕草だが、彼女はつい声を上げてしまう。決定的に子供の其れとは違うものが、彼の唇から与えられるからだ。

「……んっ」

甘い声を彼は上目遣いで見遣ると、濡れた突起を咥え直してもう一度強く吸う。弄っている片方の先端から滲むものが彼の指を濡らした。途端、途方もない背徳感が**を襲い、やや強い口調で男を止めようとしたのだが、彼は自らの胸を庇おうとする彼女の手を抑え、笑いながら囁くのだ。

「静かにしないと、"あいつ"が起きちまうぞ」
「……!」

彼女が最優先するものは王子だと、王はよく知っている。そして義務という名の枷が付いているかぎり、彼女は決して自分に逆らえない。それをよい事に彼が赤子に似て非なる愛撫を施すたび、次第に彼女は追い詰められていった。組み敷かれ、困惑と羞恥、そして情欲がない交ぜになった女の顔で、それでも声を出さぬよう口を必死に噤む彼女に彼はぐっと息をのみ、濡れた胸をいたぶるのをやめて顔を上げた。見上げてくる最愛の女性の表情は、彼の理性を簡単に拭い去っていく。それから後の動きは性急だ。まるで覚えたての少年のように。

「王、お、う……」
「**。……名前で」

吐息と同じ声量で呼び交わされる互いの名が聞こえなくなるまで、月はどれほど傾くだろうか。夜は、まだ深い。





彼女が子を産んだ頃のことは、数ヶ月が経った今でも忘れていなかった。化粧などしていなくても輝く頬は、暑さのためか少し蒸気していた。彼女の放つものに言葉すら忘れ、彼はしばらく見入る。優しげな花びらの色に誘われ、腕を伸ばして触れれば、彼女は彼の手を拒むことなく、されるがままになっている。

「綺麗だ」

ふいにかけられた言葉に驚いたのか、瞳を丸くし、今度は彼女が絶句する番だ。触れている箇所は温かかった。このような人を毒蛇蠢く巣へたたき込んでなるものか。彼が密やかに決意したのは多分この時だった。





空は暁の色を湛え始めた。**が微睡んでいられたのは、おそらく一刻にも満たないごく短い時間。だが赤子の呼び声に、義務と愛情が重い彼女の体を動かしたのだ。だが絡められた腕から逃れようとしたとき、声が聞こえた。

「"飯"の時間か?」

互いの顔が薄っすら見えた状態はやはり気恥ずかしく、彼女は目線を少し逸らして頷くと、「おはようございます」とあるかなきかの声で呟く。そんな彼女の言葉に嬉しそうに笑うと彼は寝台から降り、ぐずり始めていた王子を抱きかかえ、上半身を起こした**に渡した。

「……ありがとうございます」

昨夜のせいで下半身が鉛のごとく重い。彼の気遣いに甘えて素直に礼を述べ、彼女は王子を抱いた。が、そんな感謝の気持ちは、彼が自分を後ろからすっぽり抱いたときに瞬時に消え失せたのだった。

「あの、王」
「名前で呼べって」

首筋に顔をすり寄せてくる彼を「猫のようだ」と不遜にも思いつつ、**はため息をついた。

「シャンクス様。お見苦しいものをお見せしたくないのです」
「俺ぁ気にしない」

こうなっては、彼がテコでも動かないのを**は知っている。彼の視線を感じつつ、いつもより肌蹴る面積を少なくしつつも、彼女は王子に乳を与え始めた。

「よく飲むなぁ」
「ええ、本当に、とても良い御子です」
「乳がよく出るからか?」

現在"使われていない"方の胸をそっと揉む彼に、つい彼女は「王!」と高い声を発するが、彼には一向に気にする様子はない。やわやわとした触れ方をできるだけ気にしないよう努め、彼女は無心で赤子に乳をやる。生真面目なその様子に王は笑った。結局十分な乳の量に満足した王子が小さなおくびを出すまで、彼は空いた胸を弄びながら、真剣に彼女と赤子を眺め続けていた。

「もう寝かせるのか?」
「はい」
「……」

彼は無言で、彼女をきつく抱いた。

「シャンクス様?」
「……"こいつ"が」

 ――俺とお前の子供だったらよかった

一瞬で跳ねた鼓動を、彼が首筋によこしたキスのせいにできたのは幸いだった。"素直"な反応に気をよくしたのか、彼はもう一度彼女の白い肌をきつく吸うと、起き上がって王子を抱き、専用の寝台に戻す。

彼が再び組み敷いてきたときの寝台のきしむ音が、いやに彼女の耳についた。彼の直ぐなる瞳と目線を合わせていられず、瞼を閉じた彼女に、彼は唇を重ねる。薄明かりが射し込んできた時刻にしては、とても深いキスだった。

「……そろそろお戻りになるお時間では」

唇が離れると同時に彼女は珍しく早口で伝える。だが語尾は再度の口づけにのみ込まれ、消えていった。

「今日はな、自主的休業だ」

緊急事態以外は呼ぶなと言ってある。楽しげに告げる王に**は一瞬でいろいろなものを諦めたのだったが、意外にも彼はそれ以上の行為をしてくることはなく、彼女に抱きついてこう囁いた。

「たまには、休もう。一緒にだ」
「……」
「後で食事を持ってこさせるから、一緒に食おうな」

軽やかな音のキスを胸に落とすと、彼は双丘にぴったりと頬を寄せ、瞳を閉じた。この大きな赤子を仕方なしに抱き締めて、彼女もゆったりと目を閉じる。多分、安らかな眠りは訪れることはないと知りながら。

*****
「先王シャンクスと乳母/後編」(written by まり緒)


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -