「濃霧注意報」サンプル





同じ大学でも宍戸と鳳は学部が違うせいで生活サイクルが結構違う。そもそも宍戸と鳳の通うキャンパスが一駅分離れているから待ち合わせとなると何処か場所を指定しての待ち合わせになるのだ。
鳳はその待ち合わせがすごく気に入っている。宍戸にはもちろん言えないことなのだが、デートの待ち合わせをしているようで相手を待つときも待たせているときも心地よい緊張を味わえた。
今日は宍戸の方が鳳のキャンパスへ向かう約束になっている。大学の目の前のコンビニで立ち読みをしている宍戸をこれまでも何回も見てきた。鳳をガラス越しに見つけたときの宍戸の笑顔が大好きで、これからも宍戸との待ち合わせに使う場所は変えるつもりはない。
鳳は大学の通用門を抜けコンビニ前の信号機が青になるのを待っている。宍戸は今日発売の週刊漫画雑誌を必死に読んでいるのだろうか、まだ鳳に気付いてないようだった。
「早く気付いてくれないかな」
ぽろっと独り言を呟いてその言葉が聞かれていないか周囲を確認したちょうどそのとき、運悪く配送トラックがコンビニを隠すように路上駐車をした。
宍戸に早く自分を見つけてほしい一心で鳳は信号が変わった横断歩道を渡ろうとしたが、またもや運悪く後ろから自分を呼ぶ声に反応して立ち止まってしまった。
後ろを振り返ると同じゼミに通う女性がこちらに向かって手を振っていた。
「どうしたの?」
「鳳くん帰っちゃうの?今日みんなで飲み会しようって話になってたんだけど聞いてない?」
「用事があるから断ったはずだけど…」
「えっ?そうなの?人数に入れちゃったよ」
「そんなこと言われてもな…ごめんね」
この会話をしている間にも宍戸を目と鼻の先のコンビニに待たせていて、目の前にいる相手には失礼だとは思うけど心ここにあらずの鳳は横目でコンビニを確認した。
すると信号はいつの間にか変わっていてコンビニを隠していたトラックも見当たらず、そして立ち読みをしているはずの宍戸の姿もなかった。
「あれ…?宍戸さん…」
「鳳くん?」
「いや、なんでもない」
「ねえ、どうしてもだめ?鳳くんいつも飲み会こないし…たまには、ねえ?」
「次回は行くよ。だから今日は…」
「行ってくりゃいいじゃん」
聞き覚えのある声に反応して振り返ると、さっきまでコンビニにいたはずの宍戸が携帯電話を片手に立っていた。
「いつの間に…」
「俺のほうはそんな大事な用事でもないんで、コイツ連れてってくれてかまいませんよ」
「で、でも!宍戸さんとは飲み会の前から約束してたし…」
「いいよ、あの本は自分で探してみるから。飯だって今度行けばいいだろ」
「でも…」
「でも、じゃねえよ。女の子の顔に泥を塗るなよ」
宍戸は鳳の肩を二回、いい音をさせながら叩いて女性に一礼してから背中を向けた。鳳は宍戸さん!と大きな声で呼んだのだが、一度も振り返ってもらえず片手に持った携帯電話を振る仕草だけして歩いていってしまった。
あとで連絡しろよということだろうが、鳳は勝手に約束をないものにしてしまった宍戸の考えを知りたくて連絡どころか今から駆け寄って問い質したいくらいだった。
「鳳くん、みんなも待ってるから行こう」
「…うん」
後ろ髪引かれる思いとはこういうことをいうのか。宍戸が去っていった方へ視線をやるともうその姿はなく、相手を一時的でも拘束させる言葉すら口に出せない先輩後輩という関係に奥歯を噛みしめた。







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