聞こえてますか? 1




昼休みもそろそろ終わろうとしている時間にクラスメートの女子が足取り軽く近付いて来たと思ったら、唐突に質問された。

「鳳くんって宍戸先輩と仲いいよね?…宍戸先輩って彼女いるかな?」

まったく予想してなかった問いに一瞬言葉に詰まった。
なぜか背中がヒヤッとしている。
何か喋らなくちゃと口を開けば正直な答えを吐き出していた。

「いない、と思うよ」

「ホント?ありがと!」

女子が教室の端にいる数人のグループへ走り寄り、その中のひとりへ何かを伝えていた。
その女の子は顔を真っ赤にして数回頷いていて、俺はそんな女子の姿を目で追いながら、自分が素直に答えてしまったことに何故か後悔が襲ってきた。

宍戸さんには彼女はいないはず。
間違ったことは言ってないのにこの蟠りはなんだろう。

女子達のはなやかな雰囲気が視界に入ると胸に小さな棘が刺さるような感じがして、疼いて、苦しくなって、女子が視界に入らないように机に突っ伏して寝たふりをした。











宍戸がテニス部を引退してからというもの、たまに学校で会ったり鳳からメールをしたりする他はあまりコンタクトを取らなくなっていた。
引退して一週間後辺りには心にぽっかりと大きな穴があいたような気持ちになり、宍戸さんの存在が自分の日常にこんなに入り込んでいたのかと驚くと共に、やはりじわっと襲う寂しさにラケットを握ることさえ躊躇うくらい鳳は滅入ってしまったときもあった。

ただ全く宍戸と会えないわけではない。
宍戸が部活に在籍していたときほどは会えないが、学校内で会えたら普通に会話をするし、鳳が何かしら誘うのならば必ず話には乗る。
だから時間が過ぎると共に宍戸が隣にいないのが当たり前になり、たまに会うのが普通になっていた。

それがクラスメートの一言で、ダブルスを組んでいたときのように、いや鳳にとってはその当時よりももっと宍戸の存在を気にするようになってしまったのだ。

「宍戸さんってモテるんだ」

自分でも失礼なことを呟いた自覚はあるが、そう言わざるを得ないほど宍戸は恋愛ごとに遠い生活を送っていたと思う。
でもそれは鳳が宍戸のダブルスの相方だったときで、今の宍戸さんはどうだ?と自問すると、答えがハッキリと出てこなかった。

また胸の奥がざわつきはじめる。
刺さった棘が更に深く沈み込んだように心臓あたりが疼く。

今の宍戸さんには本当に彼女がいないんだろうか。
部活をしていた時間は何に使っているのか。
なんで宍戸さんからは連絡くれないんだろう。
それはやっぱり彼女が本当はいるからなの?

そうやって考えれば考えるほど部活引退後の宍戸のことをほとんど知らないと思い知らされた鳳は、クラスメートから宍戸のことを聞かれてから今までずっとそのことで頭がいっぱいになっているが本人はまったく気付いていなかった。



「宍戸先輩にふられたんだって…」

数日後、鳳の耳に届いてきた声はこの前宍戸のことを聞いてきた女子で、鳳の視線は机の一点を見つめたまま固まり、全神経は数人の女子の会話に集中していた。

あの日から宍戸とはメールで数回やり取りしただけ。
しかし宍戸からは告白された内容のメールなど送られてこなかったし、まさかクラスメートがこんなに早く告白を実行に移すなんて鳳は想定をもしていなかった。

クラスメートの友達はふられた訳だが、彼女たちの会話は決して鳳を安心させるものではなかった。
宍戸が恋愛事を一切鳳に話さないという焦りと、それよりももっと気になる会話が耳についたからだ。


「好きな人がいるって言われたんだって…」


宍戸さんに好きな、ひと…


胸に刺さった棘は背中まで突き破った。







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