「永遠なんてものは、ないのよ」 それが彼女の口癖だった。永遠など存在しない、と、彼女はいつも言っていた。僕が彼女に告白したあの日も。 「私もあなたが好きよ。でも、永遠に好きでいられるとは限らない」 「…………」 「いつかあなたを嫌いになる日が来るかもしれないわ。あなたもいつか私を嫌いになるかもしれない」 恋人同士になったとしても、ずっとその関係が変わらないなんて有り得ないのよ。そう、彼女は言った。呼吸をするかのように、ごく自然に。 「それでもいいの? いつか私が、あなたを傷つけてしまうかもしれないのに」 「いいよ。今だけでも。永遠じゃなくても、いいよ」 そう答えて、僕は彼女の手を握ったのだ。 あれから、もう何年が経っただろう。僕も彼女も大人になった。永遠はないという、とうの昔に彼女が悟っていた真理に、僕も気付けたのだろうか。もしかしたら、いつも彼女の口癖だったそれをただ真似していただけだったのかもしれないが。 それでも、永遠はないとしても、今ここにいる僕は彼女が好きだ。それは自信を持って言える。 寒空の下、ネオンが輝く街並みをぼんやりと見つめる。コートのポケットに突っ込んだのは、指輪の入った小さなケース。これを差し出したら、彼女はきっと、またあのセリフを言うのだろう。 永遠なんてない。人の気持ちは移り変わるものだ。今抱えているこの感情は、いつか消えてしまうかもしれない。それは分かってる。 それでも、この小さなリングで、彼女の心を僕だけに繋ぎ留めておけないだろうか──だなんて。そんなことを思う僕はどうかしている。ずっと彼女の傍にいて、あのお決まりの言葉を聞いてきたのに。 永遠じゃなくてもいい。少しでも長くきみの傍にいたい。少しでもきみとの永遠に近づきたい。この指輪が僕の答えだ。 白い息を吐き出すと、人混みの向こうに、彼女のコートの色が見えた。彼女の姿を探すのもずいぶんうまくなったな、とぼんやり思う。当たり前だ、大好きな人と何年も何年も一緒にいたのだから。ずっときみを、きみだけを見ていたんだ。 瞳を閉じると、数分後に目の前にいるだろう彼女の笑顔が見える。きっと、こんなふとした瞬間を通して、人は誰かとの永遠を願うのだ。この笑顔をずっと瞼に焼き付けていきたい、と。 © 2011-2017 Hotori Aoba All Rights Received. -- ad -- |