「……あ」

 なんとなく昔のメールを見返していたら、保護マークのついた懐かしいものを見つけた。

 送信元は三浦理恵。日付は今日からちょうど四ヶ月前。

『吉岡に告白した』

(……ってことは、今日が記念日か)

 あれからもう四ヶ月か。カップルが別れやすいのは三ヶ月経ったあたりだといつか聞いたことがあるが、二人の間には別れに発展するようなトラブルもなく、平穏な関係が続いている。ただ、理恵と裕也の場合は恋人なのかどうかも怪しいくらい何も進展がないのだが。

(なーんか、つまんないんだよねぇ)

 野次馬根性は正直だ。もちろん理恵と裕也の仲が良いのは誰でも分かるのだが、やはり恋人同士なのだからもう少し距離を縮めてほしい。手を繋げだのキスしろだの、そんなお節介は言えないが、そういう恋人らしいことも少しはすればいいのにと思う。無理にする必要はないとも思うが。

(ま、でも、なんだかんだでいいカップルだしね。進展らしい進展がなくても)

 いろいろと余計なことを考えつつも、思い浮かんだそれは本音だった。裕也が理恵にベタ惚れなのは誰の目から見ても明らかだし、理恵だって裕也ほど分かりやすくはないが彼を想っているのは本当だろう。そして、お互い相手を大切にしているというのも、やはり真実であると思う。

 だから、彩乃は二人には幸せになってほしいと思っていた。たとえどんな邪魔が入っても。

 携帯電話が震え、メールの到着を告げる。相手は、先ほど彩乃自身がメールを送った隆彦だ。

『好きだよ』

 理恵のこと好きなんでしょ、との問いかけへの隆彦の返事は至ってシンプルだった。絵文字をよく使う彼にしては珍しく、たった四文字だけの返信。本気なんだ、と嫌でも分かる。

『理恵、吉岡と付き合ってるよ』
『知ってるけど、それでも好きなんだよ』
『なんで理恵なの』
『さあ? 俺もよくわかんない』
『理恵のこと、吉岡から奪う気?』
『まあね』

 裕也から理恵を奪う、なんて。裕也はあれほど理恵を想っているのに。どうして理恵のこと好きになっちゃったんだろうこいつ、などと考えれば自然と眉間に皺が寄った。

『あたしは早川の味方はしないから』
『わかってる』

 そうだ、あたしは早川の味方はしない。あたしは理恵に幸せになってほしい。そして理恵にとっては吉岡と一緒にいるのがいちばん幸せなんだ。

(もし早川の好きな人が別の人だったら応援したんだけどな……仕方ないか。それにしても、早いとこ吉岡と理恵をくっつけておいた方が良さそうね)

 彩乃は閉じかけていた携帯電話を再び開き、それから手早く文章を打ち込んだ。宛先は裕也。

『いい加減、理恵と距離縮めないと危ないかもよ』

 送信中の文字が消えたのを見届けて携帯電話を閉じる。──これからどうなるのだろう、という不安は、少なからずあった。





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