『今日で四ヶ月だね。これからもよろしくお願いします』

 三十分ほど前に届いていた理恵からのそんなメールにやっとのことで返事をして、裕也はベッドに倒れ込んだ。返信が遅れたのは気づかなかったわけではない、ただ嬉しすぎて何度も見直してしまっていたからだ。

(気持ちわりぃな、俺……)

 自らに呆れつつ目を閉じる。が、すぐにぱちりと目を開けて再び携帯電話を操作し、先ほどの理恵からのメールに保護をかけた。彼女からの連絡ならばどんな内容であっても嬉しいが、今日のメール、というか毎月この日付にもらうメールは特別に嬉しいものだ。毎月の記念日には必ずきちんと自分から挨拶をしてくれる彼女は、本当に良い恋人だとつくづく思う。

 ぼんやりと物思いにふけっていたところで携帯電話がオーソドックスな着信音を流し、裕也ははっとしてそれを開いた。

『今日、四ヶ月なんだって?』

 送信元は早川隆彦。そのことになんとなくがっかりしてため息をつきながら返信画面に切り替える。

『そうだけど』
『へー。おめでとう』
『どうも』

 ありがとう、と言うのが悔しくて、そう返信した。またすぐに着信音が鳴る。

『俺、やっぱ理恵ちゃんのこと好きだわ』

 さっきの会話とまったく関係のないその文面を見た瞬間に、表情が強張ったのが自分でもはっきりとわかった。裕也は乱暴に携帯電話を閉じ、寝返りを打つ。

(三浦は俺のだ)

 口には出せない。けれど、それは確かに本音だった。

 付き合う前、そして付き合い始めてからのこの四ヶ月で、自分は人一倍不器用なのだということは痛いほどわかっていた。理恵を幸せにすることのできる人は、きっと自分以外にいくらでもいるだろうとも。それでも、不器用ながらもずっと理恵を想ってきたのだ。幸せにできている自信もこの感情を理恵に伝えきれている自信もとてもあるとは言えないが、他人に渡したくはなかった。

 ただ、わからないことが一つある。

(三浦は、俺と同じくらい俺のことを好きでいてくれているんだろうか)

 理恵のことを疑っているわけではない。ただ自分に自信がないのだ。だんだんと、思考が暗い方へ暗い方へと向かっていく。

(三浦が、もしも俺より早川の方を好きになってしまったら――)

 そうなったら諦めるとは決めたものの、諦めきれる気がしない。これほど好きになった相手が、もし他の相手を選んだら……そう考えるだけで苦しくなる。想像しただけで胸が詰まり、裕也は必死に頭の中のビジョンを振り払おうとした。大丈夫、あの三浦がすぐに別の男に乗り換えるような真似をするはずがない。そう自分に言い聞かせる。

 それでも、この間見た、いや見せつけられたあの姿は消えなかった。二人並んで楽しそうに話しながら歩く隆彦と理恵。そして、それを見たとき自分を突き刺した嫉妬心と劣等感。――そんなもの、簡単に忘れられるわけがなかった。





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