「やだ、もう無理……怖いよ」 「観たいって言ったのは理恵だろ」 「そうだけど、でも……」
テレビから悲鳴が聞こえるたび、首をすくめる理恵。映し出されているのは数年前に話題になった映画だ。公開されていたときに見逃したからと理恵が点けたのだが、血やら殺人やらが苦手な彼女には、やはりその手のものは厳しかったらしい。
「消そうか」 「それもやだ、面白いんだもん」 「……まったく」
怖い怖いと言いつつも、理恵は半分だけ目を開けて映画に見入っている。やがてコマーシャルが入り、理恵は安心したように肩の力を抜いた。
「こういう映画苦手だろ? なんで観るんだ?」 「裕也が、」 「俺が?」
予想もしていなかった言葉に、裕也は思わず聞き返す。理恵は頷いて続けた。
「昔、裕也が友達と観に行ってたでしょ。そのときおもしろかったって勧めてくれたから、観てみたかったの」 「……そうか」
こんなにも苦手なものを何故観たいというのか不思議だった。だが、それは自分の一言のせいだったのかと考えるとかなり嬉しい。数年前に何気なく言っただけだったのに、ずっと覚えてくれていたのだ。
映画が再び始まった。理恵は手近にあったクッションを引き寄せ、抱き抱える。しかし、裕也はそれを取り上げた。
「ちょっと、裕也」 「ほら。手」 「え?」 「怖いんだろ」
裕也が差し出した右手を見つめて、理恵は微笑んだ。そして、手のひらではなく腕に抱きつく。
「こっちの方がいい」
照れたような笑顔に顔が赤くなるのを感じる。
「大丈夫か?」 「うん。もう怖くない、と思う。多分」 「多分って……」 「怖くなったらもっとくっついていい?」 「……いいけど、」
俺が我慢できなくなるかも。心の中で付け加え、裕也も理恵と一緒にテレビへと意識を向けた。
どうでもいいことですが、「映画」はデスノートをイメージして書いたものです。
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