「……今日、わたし誕生日だったんだ?」
開口一番、これだから困る。せっかくお菓子作ってきたのに、本人が覚えてなかったら意味ないじゃん。ちょっと脱力した。
「何言ってんのよ葵。誕生日くらい覚えなさい、自分のことなのに」 「どうでもいいから忘れてた。あ、でもわたし、彩乃の誕生日はちゃんと覚えてるよ」 「いやいや、あたしのはいいから」
葵って本当に、自分に無関心っていうか、冷たい。誕生日って大事な日でしょうが。しかも葵の誕生日なんだし、あたしにとってはどうでもよくなんかないんですけど。だからこそせっかくサプライズでお祝いしようと思ったのに、ぐだぐだになっちゃったなぁ。お誕生日おめでとうって言って、カップケーキとクッキーと旅行先で見つけた綺麗な栞、渡そうと思ってたのに。まさか第一段階で失敗するとは思ってなかった。まあいいか、とりあえずお祝いは今からでも遅くないし。
「……とにかく、誕生日おめでとう。よかったら受け取って」
ケーキとクッキーを入れた箱と、栞の入ったちいさな包みを差し出すと、葵は嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう。これ、彩乃が作ったの?」 「うん、まあね。おいしくないかもしれないけど」 「え、おいしそうだよ。すごいね、こんなの作れて。女子だなー」 「葵も女子でしょ」
クッキーをひとくちかじった葵がおいしいと笑ったから、あたしもつられて笑顔になる。脆いところも、他人からしたらめんどくさいところもあるかもしれないけれど、そんなこと全然気にならない。全部ひっくるめて大好きで大切な、あたしの友達。
「ありがと」
あたしの感謝の言葉にたくさんの意味が籠もっていることに、たぶん葵は気付かないから。あたしも何も言わず、ただ笑っていた。
喜んでくれてありがとう。仲良くしてくれてありがとう。出会ってくれてありがとう。生まれてきてくれてありがとう。これからもずっとずっと、この日を祝っていけたらいいな。
お誕生日おめでとう、葵。
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