※大学生 ※同じor近くの大学に通ってます
重い瞼をゆっくりと開け、傍らのデジタル時計を見るともう夕方だった。初めて大学を休んだな、ともう一度目を閉じながらぼんやり考える。風邪が治ったら休んでいた間の講義のノートを見せてもらわなければ。
「理恵」
近くのテーブルでノートパソコンをいじっていた裕也がこちらに気付いたらしい。立ち上がって冷蔵庫からスポーツドリンクを出し、ベッドの方に歩いてきた。
「飲めるか?」 「んー……飲む」
背中を支えてもらいながらゆっくり上半身を起こすが、ひどい頭痛に顔が歪んだ。たかが起き上がるだけでものすごいエネルギーを消費した気がする。裕也がコップに注いでくれたスポーツドリンクに口をつける。甘酸っぱい味が身体中に染み渡っていく気がした。コップを空にして、理恵は再び横になる。
「熱は?」 「寝る前に計ったら七度八分だった。大したことないよ」 「大したことあるだろ」
ため息をついた裕也が理恵の額に手を載せた。まだ熱いな、と呟き、冷却シートを貼る。ひやりと心地よい感覚。
「食欲は?」 「微妙……」 「りんごとかなら食えるか?」 「うん、たぶん」 「わかった」
どうやらここに来る途中でいろいろ買い込んできたらしく、スーパーのビニール袋からはりんごを探し当てるまでに二本目のスポーツドリンクやらゼリーやらが次々に出てきた。ぼんやりその様子を眺めながら、理恵は幸せそうに微笑む。 キッチンでりんごを剥き始めた裕也に向かって理恵は話しかけた。
「裕也ー」 「ん?」 「ごめんね、忙しいのに来てもらって」 「いや、そんなに忙しくないから大丈夫。俺も、その……心配だったし」 「……ありがと」
たん、たん、とりんごを切り分ける小気味よい音がして、やがて裕也が皿に山盛りになったりんごを手にやってきた。
「まだ半分あるからな」 「うん。いただきます」
綺麗にカットされたりんごを口に運ぶ。なんだかやけにおいしかった。
「……おいしい」 「良かった」
ゆっくりとしたペースで、それでも理恵はりんごを平らげた。力尽きたように横になり布団を被る。そっと頭を撫でた裕也に、理恵は微笑みかけた。
「裕也ってさあ」 「うん」 「なんかお母さんみたい」 「……なんだそれ……」 「あたしが風邪ひいたらまた看病してね」 「当たり前だろ」
眠りにつくまで、頭を撫でる裕也の手のひらの感触はずっと消えなかった。
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