番外編 | ナノ
それは、その出逢いは。
とても輝いてみえて捉えられた、僕の−
僕と炯至くんが会ったのは保育園の年少組のときです。ですから、3歳頃ですね。その春、組み替えがあって僕と同じ組になったんです。たしか、うさぎ組だったと思います。その当時僕は、人見知りもあって部屋の隅の方で絵本をよく読んでました。
「ねぇ!なによんでるの?」
「え、と・・・?」
「あ、おれ#しらかみ#けいし!きみは?」
「・・・くろこ、てつや・・・」
そう、僕らは出逢ったんです。
「んー、じゃあてっちゃんってよぶね!」
にっこり笑って幼い炯至はそう黒子のあだ名をつけた。
「で、なによんでるの?それおもしろい?」
そう炯至は興味深そうに黒子テツヤ、てっちゃんの手元にあった絵本をみた。それはあまり炯至が本を読むということをしなかったので、単純に知らない事を知るという探求心からだった。
幼い炯至はとても活発な子どもで友だちとかけっこしたり鬼ごっこや隠れんぼ、木に登ったり。部屋の中にいるより外で遊ぶことが得意でした。じっとしている事がない子どもだったのです。なかなかのやんちゃっ子で先生泣かしで有名でした。ですから、雨の日でもないのに、部屋にいたのはとても珍しくて。
それに黒子テツヤという子どもにも少なからず問題がありました。
人見知りというのもありましたが、それだけでなくその頃からふわふわとした存在感で担任の先生すら忘れる時があるほど影が薄かったのです。ですから同い年の子どもとあまりコミュニケーションをとったことがなく、炯至に話しかけられてついつい緊張してしまいました。
「え、と・・・あ、あの」
言葉を詰まらせて喋ろうとしますが、日頃あまり喋らないことが裏目にでてしまいました。
「あ、そっか、てっちゃんあんましゃべんないもんね!びっくりした?」
「は、い・・・」
それでも炯至は笑って、ゆっくりでいいよ、とテツヤのふわふわの頭を撫でて落ち着かせます。
「きみ、は・・・」
「けいしな!よびかたはすきなようにいいよ」
「すきな、ように・・・?」
その言葉をきいて、テツヤはびっくりしました。
同い年の子は自分に気づくことがほとんどないので、友だちがいません。何人かはいますが、それは先生たちが気を使ってくれたもので自主的にテツヤに話しかける子がいなかったのです。
なので初めて話しかけられたうえ、相手を好きなように呼べる事にびっくりしたのです。
「うん。だっておれもテツヤのことてっちゃんてよんでるし!」
「えと、じゃあ・・・けいし、くん」
「おう!いいよ!よろしくてっちゃん!」
「よろしくです。けいしくん」
その笑った顔は、後々炯至にマジ天使降臨!!と変態混じりに力説することになるほど可愛らしいものでした。
「いつもてっちゃんはじっこでごほんよんでるよね!」
「うん、だってぼく・・・、ともだちいないんだもん・・・だれもぼくにきづかないし、」
「えー、おれがいんじゃん!おれもうてっちゃんとともだちだよ?それに!おれてっちゃんにきづいたしー」
にやりとイタズラ成功したときの様な笑みをうかべる。
「うん。」
「わ、てっちゃんなくなよー。これからいっぱいみんなとあそべばいいじゃん!おれがおしえてやるよ!」
泣き出したテツヤに慌てることなく抱きしめて落ち着かせます。背中に回る手がちいさく洋服を掴んだのに、炯至はとても切ない気持ちになりました。
「あらあら、テツヤくんどうしたの?」
「あいちゃんせんせーだ。」
滅多に泣かないテツヤが泣いているのをみて、先生があわてて炯至に事情をききます
「炯至くん、テツヤくんどうしたの?」
「んと、てっちゃんさみしかったんだよ。ごほんよんでてもみんなとあそびたかったんだって。だからこんどからおれといっしょにあそぶんだ!」
「え、?」
炯至にしがみついてほろほろと涙を流すテツヤはその顔を見せまいとさらに炯至に抱きつきます。
「そっか、ごめんねテツヤくん。先生たち気づいてあげれなくて。」
「だいじょーぶだよあいちゃんせんせー!こんどからはおれがいるし!ね、てっちゃん!」
ねー、と同意を求める炯至に、こくり、とテツヤは小さく頷く。それを見た先生はにっこり笑っていいます。
「うん!炯至くんがいるなら絶対大丈夫だね!」
「えへへ!てっちゃんのことならまかせて!おれ、てっちゃんのことだいすきだからどっかいってもすぐみつけちゃうよ!だからあんしんしてね!」
まるで愛の告白。
でもそうはならないのが幼児なのです。
胸を張ってそういう炯至はとても嬉しそうでした。
それから、十何年と一緒にいることになるとは終も知らずに。
2人はにこにこと嬉しそうに手を繋いでいました。
「ぼくも、けいしくんのこと、だいすきです」
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