番外編 | ナノ


「なら、・・・せんせー、俺らもういっしょ。」

はぁ、と溜息を吐きながら炯至はランドセルを黒子から受け取り、そういった。


「だって俺もてっちゃんも悪くねぇし。じゃーさよーなら。・・・ほら、・・・くろもいくよ」

そういって黒子の手を引っ張る炯至に黒子は驚きを隠せなかった。ずんずんとお互い何も言わずにいつもの通学路を歩く。

随分と時間がたっていたのか、あたりは夕日が沈むほどに色をかえていく。


「炯至くん・・・、」

と、引っ張られていた手をそのままに黒子が炯至を呼び止めた。炯至はピタリと歩くのをやめ、夕日を背に黒子と向き合う。炯至がなに?と黒子にきく。

黒子からだと、いま、炯至がどんな顔をしているのかわからない。


「なまえ・・・」

黒子がそういっただけで意を汲んだのか、炯至は引っ張ていた手を解いて繋ぎなおした。それをギュッと握りかえして小さく、炯至とは思えないような声色でだって、と呟いた。


「だって俺がくろのことてっちゃんなんて呼ぶから、」

てっちゃんが俺のせいで、イジメられてしまった、と。そう呟いた。


「でも!・・・、でも・・・ぼくのこと、初めて呼んでくれた名前なのに・・・」

黒子も俯いて泣きそうになりながら思いの丈を炯至にぶつける。


「初めて炯至くんが呼んで、つけてくれた大切な名前なのに・・・、それだけの、理由で、炯至くんから呼ばれなくなるのはいやです・・・!」

「でも、俺はてっちゃんが俺からそう呼ばれてイジメられるのは、もっと嫌だ」

どんな顔をして炯至がそういったのか、黒子にはわからない。いや、わかりたくもなかった。

大切な呼び名を、たかだかよくも知らないクラスメイトにいわれてイジメられたからといってそう安安と捨てられるものではなかった。

なら、せめて・・・

その思いで黒子は繋いだままの手をギュッと力強く握り締めて言った。


「なら、せめて・・・せめて、ぼくと2人きりの時くらいてっちゃんて呼んでください」

「え?」

ぐっ、と涙を堪えて黒子は意を決していう。


「炯至くんが、・・・ぼくのことてっちゃんて呼んでぼくがイジメられて・・・それで炯至くんが傷つくのなら、人前で呼ばなくていいです。ですが、どうかお願いです」


2人きりのときはぼくのことてっちゃんて呼んでください。炯至くんにくろ、なんて他人行儀されるなんて


泣きたくなります・・・



そういって炯至につげた。
黒子はためた涙を隠すように俯いたままだ。

夕日は既に沈みきり、あたりはもう薄暗い。
薄ぼんやりと遠くの街灯がつき始めた。
いつもの通学路は人影はなく、炯至と黒子の2人きりだ。

炯至はゆっくりと繋いだままの手を解いて黒子の頬をそっと両手て包み込んだ。


「てっちゃん」

いつもの優しげな声で、黒子の名前を呼んだ。

黒子はそれに反応して、ばっと顔をあげ、炯至をみるとイタズラが成功したときのような顔をきて笑っていた。


「やっとこっちみたね」

そういって炯至はふんわりと笑った。


「ホントはさ、俺もてっちゃんのことくろ、なんて呼びたくないんだ。」

「なら、」

「でもね、どうしても。俺はてっちゃんがイジメられるのが嫌だ。俺のせいでてっちゃんがイジメられるなんてあっちゃいけない。」

そう思ってる。
炯至は黒子の透き通る水色の目を見てはっきりとそういった。


「だからてっちゃんが言ったように2人きりの時だけ。くろのこと、てっちゃんて呼ぶよ」

ごめんね、と黒子は炯至が泣いたような気がした。いや、事実涙は流していなくても炯至はないたのだろう、と黒子はおもう。


「てっちゃん、はやくかえろうか。もう6時すぎてお母さんたちから怒られちゃうよ」

頬にあてていた手をはなし、黒子に差し出す。


「そうですね、はやく帰りましょうか。」

それを黒子はなんの躊躇もなく差し出された手をとり繋ぐ。2人して顔を見合わせて笑う。

出会った頃からの仲直りの仕方。
喧嘩といわれれば微妙なところだが、今はまだそれでいいのだ。


「ねー、てっちゃん!今日のご飯なんだとおもうー?」

「ぼくのうちは昨日からのシチューだと思います」

「シチューかぁ、まだ寒いからおいしそー!」

「でしょう?」


そんな会話をしながら、家に帰る。
小学3年のある春の日の帰り道のこと。





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