前途多難


夜の繁華街から静かな町へと戻ってきた美麗は、しばらく真選組屯所でお世話になることになった。ここで一番偉い人の許可を得る必要があるからと、呼んでくるから待っていろと通された一室。そこで待つこと数分。現れたのは、ゴリラだった。


『えっまって一番偉いのゴリラなの!?大丈夫かここ…………ま、まぁ、ゴリラって賢い、もんね?わかる……わけねーだろやばいよここ怖いよ!!』
「……泣いていい?」
「おい近藤さんに謝れ小娘!近藤さんはなぁ、ゴリラじゃねぇ!ちょっとゴリラに似てるだけだ!」
『フォローになってなくない?』
「…土方さんこんな失礼な女いくら美人だからって許せませんぜ。ここで保護するなんざ俺ァ反対でさぁ」
『おい。そもそもあんたが最初に私を連行しなければここまで関わることなかったと思うんだけど?全ての元凶あんたじゃん』
「なんだてめぇ俺が悪いってのかァ?」
『当たり前でしょ!なんの罪もない女の子逮捕したこと忘れたのか!謝罪の一つくらいしろっつーの!』
「迷子のくせに偉そうだなおい」


睨み合う2人。お互いの目が燃えたのを近藤は冷や汗を流しながら止めに入る。


「ま、まぁまぁ総悟、落ち着け!悪いのはたしかに俺たちだ。えー、お嬢さん、色々とすまなんだな」
『…ゴリラってやっぱ賢いわね。いいわ許す。』
「ちっ」
「名前を聞いてもいいかな?」
『雪比奈美麗』
「美麗ちゃんか。綺麗な名前だなぁ。俺は真選組局長、近藤勲だ!だいたいの事情はトシから聞いているが、帰る家がわからないそうだな。」
『…まぁ、そうね』
「お前どこから来たんでぃ」
『さぁねぇ。私もわかんない。でも多分ここは私のいた世界とは違う』
「…(別の世界から来た、ってことか?やっぱり天人なのか?)」

1人思案する土方をよそに、近藤はにこやかに美麗に手を差し伸べた。


「とりあえず帰る場所を見つけるまではうちで保護しよう!安心しなさい。ここは男世帯だが、みんな気のいい連中だ!」
『…ありがとうゴリラ』
「いやあの、俺近藤ね。ゴリラじゃないからね」



それから夕飯の時間に、近藤は美麗を隊士たちに紹介した。

迷子の少女を保護したこと。
しばらくはうちに住むこと。

それだけを話したのだが、隊士たちは美麗のその容姿の美しさに、絶対どこかの国のお姫様だ、月かな。ぽいぽい!リアルかぐや姫だ。などとささやき合う。

その後各自今日の仕事の内容を軽く報告したあと。
「おい、雪比奈。なんか言うことあるだろ」と、土方は美麗に声をかけた。突然話をふられた美麗は『え?』と少し考える素振りを見せたあと。あ、わかった了解。と一つ頷く。そして。

『はい。ではいただきます!』
「「「いただきます!!!」」」
「ちげえええええ!!」

両手を合わせ、そう言った。
それにつられた隊士たちも同じようにいただきますと声を揃えたが、すかさず土方の怒号が飛ぶ。

「なんっでそうなる!?もっと他にいうことあるだろ!!」
『ご飯を前に言うことなんていただきます以外になにがあるのよ!言ってみろ!』
「よろしくお願いします!だろーが!」
『え、ご飯に?この世界ではそんな食前ルールがあるのね。ご飯さんよろしくお願いします!』
「いやバカなのお前!?ご飯に言うんじゃなくて俺らに!!」
『あ、そっち。』


そこでようやく、自分の勘違いに気づいた美麗。しかし続いた言葉に土方はまたもや怒鳴るハメに。

『仕方ないからお世話になってあげるわ。感謝しなさいよね』
「何様だテメェエエエエ!!」
『なによ、文句あるの?』
「拾われた分際でエラそうにしてんじゃねぇ!!なんだお前!女王様か!!」
『うるさいわね』
「おいお前らも!エラそうな小娘になにか言ってやれ!」
「おう!お世話は俺たちにお任せあれ!!」
『あら〜嬉しいありがとう』
「おいぃいいい!!なんで小娘に頭下げてんだよ!!大人としての威厳はどうした!!」
「いや、なんか逆らえないっていうか〜」
「本能が言ってるんですよね。従え、って。」
「……」


だめだこりゃ、と。
土方は大きなため息をこぼしたのだった。



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