一寸先は闇


その日はいつもと変わらない一日だった。学校に行って景吾と喧嘩して仲直りしてテニス部の皆とお昼食べて忍足蹴り飛ばして部活して…変わらない日常だった。最近日が暮れるのが早くなってきたから早めに部活が終わって、家に帰ったらおやつにプリンがあるってお母さんが言っていたからさっさと帰ろうと一人いつもの帰り道を歩いていた。角を曲がればすぐに家が見えてくる、はずなのに。

角を曲がった瞬間、景色が一変した。
外灯が点るくらいには暗くなっていた空には明るい太陽。道には私しかいなかったはずなのに、いつの間にか増えている人。
…意味がわからない。なんでいきなり明るくなってるの?なんで急に人が増えたの?なにより一番謎なのは、町並みと増えた人の着ている服。あれは着物だ。町並みは京都の下町みたいで純和風というか…完全に現代とはかけ離れてる、かと思ったら普通にコンビニやスーパーがあったし。ここはどこ。

呆然と立ち尽くす私を、まるで変質者でも見るような目で見てくる着物を着た人達。私からしたらテメーらの方が変質者なんだよ。と内心で思いつつ、いつまでも突っ立っているわけにはいかないからとりあえず歩く。
歩きながら考えよう。まずここはどこなのかを知る必要がある。見た感じ昭和よりも後…明治?大正?江戸?いやでもその時代ってコンビニとかスーパーなんてなかったわよね。ましてや空を飛ぶ車なんて……空を飛ぶ車!?

『……』

上を見たら空を車や船が当たり前のように飛び交ってた。なんなのここ。本当に意味がわからない。明らかに過去じゃないわよね……だとしたらここは未来?未来の東京?未来の東京はこんなに発展するのね。歴史を生かしながら新技術を組み入れるなんて、さすが未来。スケールが大きい。ちょっと感心しながら歩みを進めていると、タコみたいな顔をした何かとすれ違い思わず二度見。タコみたいな顔っていうか普通にタコなんですけど。周りをよく見てみれば普通の人に混じってなんか変な生き物がいっぱいいる。
トラに犬に猫が二足歩行で服着て日本語喋って…たばこふかして………


『……化け物!』


思わず声に出してそう叫べば、人面犬ならぬ人面トラが振り向いた。うわ、すごい悪どい顔してる。人面トラは私の声が聞こえたのか、「おいねーちゃん。」とヤンキーみたいな口調で詰め寄ってきた。


「今化け物って言ったよな?え、なに俺のこと?」
『……』


ただの不良と変わらないみたい。なんだ、ちょっと焦ったのがバカみたいだ。腰に刀差してるけど、どうせ偽物でしょ。侍の真似事か。あー痛い痛い。


「おい聞いてんのか!?」
『聞いてませーん。』
「……謝れって言ったんだ!俺は化け物じゃねぇ!トラだ!」
『トラは二足歩行なんかしないわよ。』
「俺はトラじゃねぇ!」
『さっきトラだって言ったじゃない!バカなのアンタ!』



ああ、わかった。コイツはただのバカだ。呆れたようにわざとらしくため息をつけば、トラは額に青筋を浮かべ刀を抜いた。
太陽に反射して鈍く光る刀はまるで本物みたい。よく出来たおもちゃだこと。
降り下ろされるスピードの遅さにやっぱり偽物だと再認識した時、笛の音が辺りに響いた。


「おにーさん、一般人に刀は向けちゃいけやせんぜ。」
「…チッ…真選組か。」


新撰組?新撰組って、あの、江戸時代幕末に活躍した警察よね?え、なにここは過去なの?そんなバカな。ああ、未来の警察署は新撰組って名前に改名したのかしら?ていうかいい加減説明が欲しい。さすがの私でも頭が追い付かないわよ。

唖然としたまま固まる私をよそに、トラは新撰組らしき男と二、三言言葉を交わしたあと刀を収め去って行った。
完全にトラの姿が見えなくなった頃、栗色の髪をした私よりちょっと背が高い男が振り向いた。暗い赤の瞳は、岳人の髪の色と似ている。


「…アンタ妙な格好してるけど、何者ですかィ?」
『何者って……一般市民以外になにがあるっていうのよ。アンタの目には私が犯罪者に見えるの?』
「…刀向けられても怖がらない女は初めてなんでね」
『おもちゃごときに怖がるわけないじゃない。バカじゃないの。』
「…は?」
『未来の東京に刀なんてあるわけない。今の時代ですらないのに未来には刀所持オッケーとかありえないわ。侍の真似事とか子供かっつの。』
「………はい逮捕ー。」
『ああ、逮捕?そうね………って、はあああ!?』



ガチャン、と。私の両手首にはめられた手錠に目をひんむいた。逮捕って、え、私捕まったの?なんで?


『意味わかんない!なんで逮捕されなきゃならないの!?』
「おーい山崎ー。頭のおかしな女逮捕したって近藤さんに伝えとけぃ。」
「いやいやそれだけで逮捕って可哀想じゃないですか!頭がおかしくったって立派に生きていけますよ!」
『失礼ね!私の頭は正常よ!離せー!』



必死の抵抗も虚しく、パトカーに乗せられた。車の窓から見える景色はやっぱり過去のような、現代のような、未来のような、不思議な世界。これから私、どうなるんだろう。


***
20万企画で書いたやつをそのまま連載します。



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