案ずるより産むが易し


この世界に来てから、早いもので2ヶ月が経とうとしていた。相変わらず帰り方はわからないまま、時間だけが無駄に過ぎていった。

今は穏やかな、とはとても言い難いはちゃめちゃな毎日を過ごしている。

そしてわかったことも、いくつか。
ここは江戸だということ。少し先は、歌舞伎町だという。江戸にしては発達しすぎているし、本当に理解しがたい光景だけれど、悲しいことにそんな光景は1ヶ月も経てばすっかり慣れてしまった。
次に街を闊歩する宇宙人みたいな変な人たちは、天人という、みたい、ではなく正真正銘、マジのガチの宇宙人だった。宇宙人と共存。若が知ったら喜びそうな話だと思った。
それから私が身を置くこの真選組。ここは私の知る新撰組とは、漢字が違った。局長を務める人も、副長のあの人も、ここにいるすべての人が、知っているようで知らない名前。わけがわからない世界だった。考えれば考えるほど、謎が深まる不思議な世界。そんな世界で、初めてお友達ができたのはつい最近のこと。

『十四郎〜』
「あ?」
『遊びに行ってきていい?』
「…またあそこか。つーかお前、帰り道探しはどうしたよ」
『ああ、あれ。もう諦めたわ』
「……」


そう、私はもう無理に帰り道を探すことを諦めました。探しても探しても帰り方がわからないんだもの。もう疲れた。めんどい。突然やってきたんだから、帰る時も突然でしょう。そのうちふらっと帰れるよ。悟りを開いた私は、この世界で生きるために、馴染む努力をすることに決めた。
そうして過ごすうちに、お友達はできたし、そこそこ充実はしている。

『じゃあ行ってきまーす』


何人もの男たちに気をつけてね、と見送られ、私は江戸の町へと繰り出した。
一人で出歩くのも、それなりに慣れた方だと思う。
待ち合わせ場所の公園に着くと、「おーい美麗〜!こっちアル!」と、独特の口調で手を振る赤いチャイナ服。

『おまたせ神楽』
「おせーよ1分待ったネ」
『1分くらい許しなさいよ!心狭いわねあんた』

江戸の町では珍しいチャイナ服を着た女の子。
彼女も宇宙人だと聞いた時は、心底驚いた。
兎?だっけな。忘れたけど。

そもそもの出会いは1ヶ月前。
帰る方法を探して出歩いていたら迷子になってしまい困っていたところでさらに変な輩に絡まてしまって。そこを助けてくれたのがこの子だったのが始まり。

歳が一つ違うだけの彼女とは言い合いをしつつもこうして一緒に遊ぶようになるほどには、仲良くなった。

『今日何して遊ぶ?』
「お腹空いたアル」
『あ、ねぇ最近新しくできた甘味処行かない?わらび餅が美味しいらしいわ』
「それを早く言えバカヤロー!行くヨ!」


甘味処行って歌舞伎町で博打して、公園でちびっこたちと缶蹴りして遊んで過ごすうちに日は暮れていた。子供たちもそれぞれ母親と手を繋ぎ帰っていく。残された私たちも、そろそろ帰ろうかと、また遊ぼうねと約束をする。手を振り別れ、屯所へと続く道を歩く。


すっかり見慣れた屯所の門を潜ると、突然ドカンと、大きな爆発音。吹き荒れる爆風に髪が乱れ、思わず目を瞑る。なに、なんなの敵襲か!?
緊張する私の耳に、十四郎の怒鳴り声が聞こえてくる。ああ、これはあの小僧の悪戯だな。

毎回毎回よくやるわ。
呆れたため息を一つこぼしながら、あてがわれた部屋に向かおうとして、気付く。


『…私の部屋、ないんですけど』


先の爆発で吹っ飛んだのは、十四郎ではなく、そして十四郎の部屋でもなく。私の部屋だった。



prev:next