「テメーどこほっつき歩いてたんだ!」
『山側に遊びに。』
「誰が遊びに行っていいっつった!」
『……』
「俺様は作業を手伝えって言ったんだ!勝手な行動をするな。」
『勝手な行動してほしくないなら私をスケジュールに入れればいいじゃない。』
「スケジュールに入れても平気でサボるだろお前。」
『あーもううるさい!私に指図しないで!』
「リーダーの言うことが聞けねーのか、あーん?」
『私の性格、アンタよく知ってんでしょ!?』
「……チッ…」


山側から帰ってきた美麗に詰め寄る跡部の怒鳴り声が食堂に響く。昼食の時間だから、と普通に海側に戻って来た美麗は呑気に椅子に座りながら、やけに口うるさい跡部をうっとおしげに睨む。言葉に詰まったのか、舌打ちするだけで言い返してこなくなった跡部はやがて深いため息をつき、口を開いた。


「…どこか行く場合は誰かに一声かけてからにしろよ。突然いなくなられると困るから。」
『ん。』


自分の行動を制限されたり、型にはめ込まれることを極端に嫌う美麗は自分のペースでやりたい時にやりたいことをする、まるで自由気ままな猫のようにマイペースな性格をしている。
美麗の性格を思い出した跡部は仕方がない、と言わんばかりに、渋々自由な行動を許可。
跡部もなかなかゴーイングマイウェイだが、美麗はそれをさらに上回るほどのゴーイングマイウェイである。


「…もういいですか跡部くん。」
「…観月か。なんだ。」


頃合いを見て、観月が跡部に声をかける。海側メンバーがそれぞれ昼食の準備にかかる中、二人は少し声のトーンを落とし何やら話し合う。


「どうやらあちこちで実践的な練習がしたいという不満が上がっているみたいなんです。」
「…ああ、知ってる。だがテニスコートを作るために必要なものがないからな…」
「そうですねぇ。場所は広場を使えばいいんですが…」


元々テニスをするためにこの合宿に来ていた跡部達だが、予想外にも遭難してしまい、最初のうちはテニスどころではなかった。なんとか落ち着きを取り戻すとテニス大好きな人間の集まりである彼らはただラケッティングをしたり壁打ちをするだけではもの足りず、試合形式の練習がしたいという不満が山側からも海側からも出ている。
しかしテニスコートを作るために必要なポール、ネット、ライン引きの道具、フェンスなどが存在しないため、作ることは不可能。


「最低限、ネットだけでもあればなんとかなるんですがね…」
「難しい注文だな。」
「ええ。」
『…本当、テニスのことしか頭にないんだから。』
「なんか言ったか?」
『もうお昼ご飯が出来たって言ったの。』


少し離れた場所で二人の会話を聞いていた美麗はやれやれと肩を竦め、ボソリと独り言。
振り返った跡部にお昼が出来たことを伝え、ようやく昼食の時間となった。
昼食後、昼以降の作業スケジュールを公開し、それぞれがしなければならない作業を確認。


「探索で調べるポイントは地図に描いておいた。何があるかわからねェからな…それ以上遠くに行くんじゃねーぞ。」


跡部の言葉に、あちこちから了解の返事が上がる。


「…あれ?柳沢さん、スケジュールに入ってませんけど…」


スケジュール表を眺めていた裕太が気付いた疑問を口にすれば、当の本人とスケジュールを作成した観月は目を丸くさせた。


「おや、すっかり忘れていました。」
「そういえば…自分のことを考えるの、忘れてただーね。」
『バーカバーカマヌケー。』
「うるさいだーね!」


美麗に鼻で笑われ、少し恥ずかしそうに抗議の声を上げる柳沢だが跡部の適当に誰かを手伝え、との投げやりな言葉に不満気な声をもらす。が、今度は跡部にも観月にも美麗にも無視られてしまい、がっくしと肩を落とした。


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