女の友情は美しい
「…ん?」
「どうした忍足。」
昼休み。屋上に向かう途中の廊下をテニス部勢揃いで歩いていたら、窓の外を見ていた忍足がふいに足を止めた。
「…あ…」
「また呼び出しか?」
宍戸が呆れたように言うように、目線の先には数人の女子が一人の女子を取り囲んでいる姿。
テニス部のファンだとすぐにわかった。こんな事をするのはそれしかないから。
話し声がそんなに遠い位置にいない跡部達の耳に聞こえてくる。
「アンタ目障りなのよ!」
「対して可愛くもないくせに調子のんなよブス!」
「……っちょっと話しただけ……」
「うるさい!!」
パァン!と、乾いた音がした。
「…っ」
「アンタホントむかつくっ!死ねばいいのに!」
そう言ってまた手をあげる女子生徒。
「ね、ねぇ?その辺にしときなよ。また雪比奈さんが…」
「来ないわよ!黙ってなさい!」
「見つかったらウチら終わりだよ?」
「…あ、美麗だ。」
裏庭に、無表情でやってくる美麗にいち早く気付いたのはテニス部達。
遠く離れていてもわかる程、怒っている事がわかる。
纏う空気が、氷より冷たく感じた。
「…あの女、美麗の親友か……ま、自業自得だな。美麗を怒らせたらどうなるか、その身を持って知るといい」
そう言い、窓辺に寄り掛かり見物する。
「私はあの女も大嫌いよ!何様って感じ!いっつも跡部様の隣にいてさ!マジむかつく!どーせ跡部様をそそのかしたに違いないわ!」
「…っ美麗はそんな事しない!美麗の事悪く言わないで!」
「黙れ『アンタが黙りなさいよ』……っ!」
バッと振り向けばそこには無表情の美麗がいた。
赤い瞳に見据えられ、ぞくりと、彼女達が震える。
美麗が放つ空気は、ピリピリと痛く、冷たい。
赤い瞳が、怒りに燃えている。
「あ…っゆ、雪比奈、さんっ!」
「あ、あの…っあたし達…っ」
震えて、涙目の二人の前に立ちはだかり、「…っ目障りなのよアンタ!消えろ!!」と震えながらも睨み返すリーダー的な女。なかなかに強気だ。
『……』
美麗はチラリと親友を見て、傷ついた頬を見るとさらに眉をひそめる。
『アンタ達……私の親友に何してるの?』
低く、冷たい声音にビクリとなる三人。
「……っ」
『どうせまたくだらないいちゃもんつけたんでしょ。調子のってるのはどっちよ。人をいじめて楽しい?そんな事して何になるの。バカじゃないの?人の悪口しか言えないなんて…人間として終わってるわ。』
「「「…っ!」」」
『自分達が話す事出来ないからってひがんでんじゃないわよ。』
「……っさい!うるさい!!黙れェ!!」
激昂して殴りかかってきたリーダー的な女の攻撃を美麗はサラリとかわし、背負い投げを決めた。手加減はしない。
「…っう…!」
地面に叩きつけられた女子生徒は苦しげに呻く。
『……』
美麗はギロリと後ろの女二人を睨む。
「「ひっ…!」」
『コイツ連れてさっさと失せろ!!』
「「はっはい!」」
二人はリーダー的な女を引きずりながら逃げて行く。途端に辺りは静かになる。
「「「「「………」」」」」
言葉を失うレギュラー達。
「…あんな美麗、初めて見た。」
「なんつーか……かっこいい、な。」
宍戸の一言に深く頷く。
確かに纏う雰囲気や怒りに燃えた赤い瞳は怖い。だけど友達を守ろうとするその勇気はすごく頼もしく、かっこよかった。
跡部はフッと笑い、美麗を見る。
親友に手を差し延べている美麗。その顔は、とても優しい。
美麗は普段こそわがままな言動や行動で周りを困らせたりする。なかなかに自己中心的なものが目立つが、仲間を大事にする人だ。大切な人が傷つけられた時、相手が誰であろうと手加減はしない。できる限りで、守ろうと動く。誰よりも優しい人だった。ただその優しさは、あまり表には出ない。故に誤解されることもよくあるのだが。
跡部はそんな彼女の隠れた優しさを、昔から知っている。
『咲希。大丈夫?』
「美麗…うん、平気。ありがとう。」
美麗の唯一の親友、栗原咲希は、へへ、と、呑気に笑う。
『アンタまたいじめられて…アイツら、二年前と同じ奴じゃない?』
「うん。そうだね」
『懲りないわね。忘れたのかしら二年前を。』
そう。さっきの女達は二年前、まだ美麗達が一年生の頃にも咲希をいじめて、美麗の仕返しを受けた人達だったのだ。
『で?今度は何が原因?』
「鳳くんと委員会が同じで…ちょっと話しただけなんだけど…」
困ったように笑う咲希。
『そう…咲希。ほっぺ、大丈夫?』
美麗は心配そうに咲希の頬に触れる。
「うん。大丈夫!美麗、いつもごめん…。」
『なーに言ってんの。そんなこと気にしない』
「…美麗も、なにかあったら私を頼ってね!絶対助けるから!」
『…2年前に十分助けてもらったわよ』
「美麗…ありがとう」
『それはこっちの台詞よ。』
笑い合う二人は仲良く並んで、校舎へと戻っていった。
to be continued...
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