いとこと再会【後編】
両校揃ったところで、練習試合は始まった。みんなが一生懸命ボールを追いかけている中、美麗は専用のパラソル付きの椅子に座り、オレンジジュースを飲みながら本を読んでいた。
氷帝メンバーにとってはいつもの光景だが、立海メンバーは初めて見る光景にびっくり。


「…なぁ、アイツマネージャーだろ?なんで仕事してねーんだよぃ。」
「…オレンジジュース飲んでるし…」
「…跡部、いいのかい?」
「アーン?」
「美麗ちゃん、いいの?」

「あぁ…アイツは一応仕事してるからな。一応。」
「あれで?」


丸井は目を丸くさせる。


「あぁ。気にするな。」
「いやでも落ち着かないって言うか…」


ジャッカルが苦笑する。


「じきに慣れる。俺達はもう慣れたぜ。なぁ樺地?」
「ウス…慣れました。」
「「「(なんでマネージャーにしたんだろう…)」」」


立海メンバーの心が一致した瞬間だった。なんとなく附に落ちないまま、午前の練習が終わる。


「あ゙ー…疲れたー!」


レギュラー達はドリンク置き場に直行する。
各校ごとに分けられた籠には、ちゃんと人数分のドリンクとタオルが存在していた。本当に仕事をしているのか半信半疑だった丸井達は、驚いたように目を丸くさせた。


「これ…あいつが?」
「あぁ。」
「へぇ…」
「やることはちゃんとやってんだよ、あれでも。」
「そう。」
「で?美麗先輩は?」


赤也がキョロキョロと辺りを見渡すが、さっきまでいたパラソルの下に美麗はいなかった。


「美麗ならあっちにいるぜ。」


宍戸が指さした先は洗濯機がある方向。これから洗濯をするらしい。真面目に働く姿に興味が出たのか、みんながこっそり覗き見る。


『…はぁーぁぁぁー…』


洗濯機の前で深いふかーいため息をつく美麗に、ため息長っ!と跡部達は苦笑。


『マネージャーってめんど。マジめんどいわ。やってらんねー。…帰りたいな。キノコ狩り行きたいなぁ…』


…キノコ狩り?突然出た単語に首を傾げたのは真田以外の立海メンバー。
愚痴を零しながらも真面目にやってる美麗を見、「な。ちゃんとやってるだろ?」と向日が立海メンバーに笑いかける。


「変わった奴じゃのぅ…」
「確かに。でも綺麗な人っスよねー!」
「そうだな…」
「あんな美人マネージャーうちも欲しいっス!美麗先輩下さいよ!」
「「「無理。」」」


切原の言葉に氷帝陣、声を揃えて即答する。まだ美麗がマネージャーになって日は浅いが、既に大切な仲間の一員なのだ。


「美麗はやらねーよ。俺達のマネージャーだ。」


跡部の言葉にみんなが頷く。


『…何してんの?』
「「!」」


その時、美麗が洗濯籠を抱え、みんなの傍にやってきた。


「先輩!俺手伝います!」
『え、でも…』
「いいからいいから。あっち持ってけばいいんスか?」
『……ありがと。』


美麗が笑った。
この練習試合中不機嫌で、笑顔等一度も見た事がなかったから、立海メンバーは初めて見た笑顔に固まってしまった。


「…今の反則っしょ…」
『…?どうしたの…えっと、切原だっけ?』
「…美麗先輩!あの、赤也って呼んで下さい!」
『赤也…?』
「はいっ!」
『ふふ…わかった。』


美麗は小さく笑うと、赤也の頭を撫でた。


その後は美麗も立海メンバーと打ち解け、すっかり仲良くなった様子。
楽しそうに笑う部員を、幸村は少し離れた場所で見ていたが、輪から抜け出してきた美麗は真っ直ぐに幸村の元へやってくる。


『ねぇ、幸村、だっけ?』
「そうだけど…どうかした?」
『…さっきは、悪かったわ。』
「さっき…あぁ、朝の事?」
『そう。失礼な事言っちゃって…ごめん。』
「いいよ全然気にしてないから。こっちこそせっかくの休みだったのに悪かったね。」
『……確かに最初は、空気読めよなクソヤロー!って思ったけど…』
「……」
『でも、今はよかったと思ってる。だって、みんなに会えたから。友達にもなれたしね。』


ニッコリ笑う美麗につられて、幸村も笑う。


長かった練習試合も終わり、帰宅時間になった。


「先輩!離れたくないっス!」


赤也はすっかり美麗に懐いた様子で、離れたくないとしがみつく。


『私は離れたい。』
「そうだ、先輩!メアド教えて下さい!」
『え?…仕方ないわね。特別よ?』
「あー!俺も俺も!」
『じゃあ赤也に教えるから、みんな後で赤也か弦に聞いて。』
「はいよー!」
「ほら皆、帰るよ。」
「先輩ー!またメールします!さよーならァァ!」
「またね美麗ちゃん。真田も、バイバイ。
「あぁ。」
『またね。』


こうして、立海メンバーは真田を置いて帰っていった。

今日一日で、立海メンバーは美麗についてたくさん知る事が出来た。


いつも跡部と喧嘩している事とか、女帝と呼ばれ、慕われている事、料理が壊滅的にヤバイ事。キノコが異常な程好きな事、キノコをこよなく愛していて、デザートにキノコを食べる事、日吉がお気に入りな事、動物が好き、虫、変態が大嫌いな事。
生徒会副会長を務めていること。冷たいようだけど、実はすごく優しく、とてもめんどくさがりな性格。怒るとめちゃくちゃ怖い事。まだまだ知らないこともあるけど、これからちょっとずつ知れたらいいなと、思う。


『ねぇ弦?』
「ん?」


立海のバスが見えなくなるまで見送った美麗はさも当たり前かのように隣にいる真田に声をかける。


『アンタさ…立海じゃなかったっけ?』
「…………」
『すごい自然にバイバイって言ってたから気付かなかったけど……いいの?』
「しまったァァァァ!!」


『さよーなら弦!あなたの事は一生忘れないわ!!天国でも元気でね!!』
「俺はまだ死んでない!!勝手に殺すな!」



真田が見えなくなると、辺りには静寂が戻った。


「…俺らも気付かなかった。」
「すっげェ自然だったな。違和感なかったぜ?」
「真田大丈夫なのか?」
『大丈夫大丈夫。心配ないわ。
弦の事だからあれもトレーニングだと思って張り切ってるんじゃない?
「「「そうだよな!」」」



おまけ〜
立海、バスの中。


「…部長。」
「ん?なんだい赤也。」
「真田副部長がいないんスけど。」
「あぁ…真田は走って帰るってさ。」
「うへー…マジかよぃ…」
「……弦一郎がこのバスを必死で追いかけている確率…95%。」
「なんか言ったかい、蓮二。」
「いや何も。」

「ま…っ待ってくれェェェェ!!」


真田はバスの少し後ろにいたが、その存在には誰も気付く事はなかった。


to be continued...


あとがき→
prev * 23/208 * next