いとこと再会【前編】
『はぁー…めんどくさ。』
日曜日。部活をする生徒以外に人はいない、比較的静かな学校の校門前で氷帝テニス部員達は、立っていた。
『せっかくの日曜日なのに…練習試合とかありえないわ…』
「まぁ、頑張ろうぜ。」
宍戸が落ち込む美麗をなぐさめる。
『…はぁ…』
事の発端は三日前の跡部の一言から。
「三日後の日曜日、立海と氷帝で練習試合をする事になった。予定変更だ。」
「はぁ?マジかよ…」
「急ですね…」
対して驚かないレギュラー陣。
予定変更はよくある事だったから。だが、美麗は愕然とした。
『日曜日休みじゃないの!?』
「あぁ。」
『なんでよ!予定表には休みって書いてあったじゃない!!今更変更とかありえない!』
「予定はよく変わるんだよ!予定は未定って覚えとけ!」
『どーしてくれんのよ!私日曜日はキノコ狩りに行くの!前から楽しみにしてたのに…!』
「んなのまた今度の休みにすりゃいいだろーが。」
『あのキノコは珍しいの!早く行かなきゃまた来年になっちゃう!ずっとずっとずーーっと前からこの日を楽しみにしてたのに!なんて事してくれたのよバカァァァ!!』
「…つーかあのキノコってどのキノコだよ。」
『あのキノコって言ったらあのキノコよ!何?アンタ知らないの?』
「多分みんな知らねーと思うがな。」
『ダメね…あのキノコを知らないなんて…それでもキノコ溺愛してるの!?』
「いや元からしてねーし。」
「つーか日曜日にキノコ狩りとか…女子中学生がやる事か?」
「やっぱ変わってんな、美麗は。」
「キノコに愛を注ぐ人初めて見ましたよ。だから日吉がお気に入りなんだ。」
「俺はキノコじゃない!何回言えばわかるんだ!」
「そこが可愛いねん」
「とにかくだ!日曜日は練習試合!忘れずに来いよ!」
『チッ……』
こうして今に至る。
本当は休みだった日曜日なのに予定変更で、練習試合をすることになってしまったのだ。
『はぁー…』
何度目かわからないため息をついた時、一台のバスが止まった。
ドアが開き、中からテニスバックを背負った人がぞろぞろと降りてくる。
『あれが立海?』
「あぁ。オラ、挨拶行くぞ。」
『はいはい。(…あれ、立海ってどっかで聞いたような…何だっけ?)』
美麗は忘れていた。
立海テニス部に、いとこがいる事を。
「やぁ跡部。出迎えありがとう。せっかくの休みだったのに悪かったね。」
「いや…」
『フン…そー思ってんならさっさと帰れッ!?』
悪態つく美麗の口を素早く塞ぐ跡部は澄ました顔で立海の部長、幸村に向き直る。
「……跡部、その子が噂のマネージャー?」
「あぁ。オイ、自己紹介。」
『……』
ムスッと不機嫌顔の美麗に、幸村は優しく微笑み、挨拶をした。
「はじめまして。立海テニス部部長の幸村精市です。」
『…』
フン、と顔をそらし、全然見ようともしない美麗に苦笑を溢すと幸村の元に、立海メンバーが集まる。
「うっはー!ホントにマネージャーいるんスね!めっちゃ美人!俺、二年の切原赤也っス!」
人懐っこく笑いかけてきたのはワカメみたいな髪型をした二年生、赤也。
『…ワカメだ』
「ワ…っ!?……っ」
「ヤバ!赤也!落ち着け!アンタも謝れって!」
禁句ワードをさらりと言われ、赤也はみるみる赤くなった。それを、赤い髪をした男が引き止める。
『なんで?ホントの事言っただけじゃない。なんで私が謝らなきゃならないの?ふざけんじゃねーよ。引っ込んでろカス。』
「カスゥゥゥ!?」
「ブン太落ち着け。」
今度はつるつるした頭の男がブン太を押さえる。
『わ、!煮たまごだ。いやハゲか。』
「ハゲ!?煮たまご!?」
立海テニス部一部は美麗の悪気のない毒舌攻撃をくらってズタボロになる。
彼らの他に、銀髪男仁王雅治、
「はじめまして。柳生比呂士と申します。よろしくお願いします。」と礼儀正しく頭を下げる眼鏡をかけた紳士的な男。
開いているのかいないのかわからないくらい細い目をした男、柳蓮二と、氷帝に負けず劣らず個性豊かな面子。
『……氷帝テニス部マネージャー。雪比奈美麗。別によろしくしなくていいから。』
「最後余計なんだよ!」
『だからって叩かなくてもいいでしょ!?』
バシッと頭を叩いた跡部に怒鳴り付ける美麗は、聞いたことのある名前に動きを止めた。
「あれ…真田は?」
「真田副部長ならまだバスの中みたいっス。あ、来た。」
『真田…?』
バスから降りてきた一人の男に、皆の視線が向く。
「ゴミはちゃんと片付けんか!まったく、たるんどる!」
どうやらバスの中のゴミを片付けていた様子の黒い帽子を被った男は憤慨しながらこっちへ向かってくる。
『あぁぁーー!!』
突然、美麗が真田を指さし叫んだ。いきなりの大声に、周りの肩はビクリと跳ね上がる。
『げーーん!!』
「「「弦!?」」」
美麗は大きな声で真田を呼び、かけていった。
『弦っ!久しぶりー!』
満面の笑顔で真田に抱き着く美麗を、真田は躊躇いもなく抱き留める。
「む…美麗か。久しぶりだな。元気だったか?」
『もちろん。てゆーか弦立海だったね。忘れてた。』
「フ…どうせまたキノコの事で頭がいっぱいだったんだろう?」
『まぁ。うん、そんなところ。』
二人の親しげな雰囲気についていけないメンバーは目を丸くさせ、ただ呆然と見つめていた。
「…知り合い?」
「……さぁ。」
「オイ美麗。真田とどーいう関係だ」
跡部が眉間にシワを寄せながら、問いかける。
『あれ、景吾知らなかったっけ?』
「知らねぇ。」
『「いとこだ/よ」』
「「「……いとこォォォォ!!?」」」
声を揃えて放たれた言葉は、衝撃を受けるには充分だった。
to be continued...
後編へ続く
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