悪戯から始まる惨劇
「あれ?跡部と美麗は?」
「あの二人なら生徒会の仕事で遅れる言うてたで。」
ある晴れた日。部室で着替えていた時に跡部と美麗がいない事に気付いた向日が首を傾げると、隣にいた忍足が答える。
二人が生徒会の仕事で遅れる。それを聞き、向日はピン!と閃いた。
「なぁなぁ!ちょっと面白い事思いついた!」
「面白い事?」
「このおもちゃの虫をさ、ドアの前にぶら下げとく。ドア開けた瞬間虫がぶらーんってなるわけ!面白そうじゃね?」
どこからか出したおもちゃの虫達を掲げ、向日は笑う。
「第一、誰が引っ掛かるんですか?」
「今この場にいない跡部と美麗に決まってんだろ?」
「……あの二人には効かないと思いますけど…」
「……俺もそう思います。」
「ウス…」
日吉、鳳、樺地の発言を無視して向日は虫(おもちゃ)をドアにぶら下げる。
「これで、よしっと!」
「面白そうだC〜!」
お子様二人は実に楽しそうに笑い、手を取り合う。
「…どうなっても知らねーからな俺。」
「美麗ちゃんには怖いもんなしやで?冷めた目で見る事間違いなしやな。」
この向日の軽いいたずら心が、のちに大きな惨劇を招く事になるなんて…誰も知らない。
悪戯を仕掛けられていることなど露知らず、跡部と美麗は生徒会の仕事をこなしていた。
「美麗、終わったか?」
『もう少しよ。先に行ってていいけど。』
「いや、待ってる。」
『…ありがと。』
数分後、美麗の仕事がようやく終わり、ぐっと伸びをし、生徒会室を後にした。
***
「おっせーなぁ跡部と美麗。」
なかなか現れない二人に待ちくたびれた向日。ふわぁと欠伸を溢した時足音が二つ聞こえた。こちらに向かっているようだ。
「来た!来たぜ!」
ワクワクした心を無理矢理押さえ、普段通り雑談を始めた。
ガチャ、とドアが開く。
『お待た……』
そしてドア開けた瞬間虫達が一斉に美麗の目の前に現れた。
美麗は目を丸くさせ、一時停止する。しかし、次の瞬間。
『ぎゃあああああああああああああああ!!!?』
「「「「!?」」」」
耳をつんざくような悲鳴が部室に響き渡った。
『いやああああ虫ィィィ!!虫嫌ァァァァ#+*&$¥!!!』
取り乱す美麗はもはや何を言っているのかわからない。
予想外の反応に固まる部員達だが、跡部だけは、冷や汗流しながらこっそりその場を離れる。
「み、美麗?大丈夫か?」
「悪い!まさかこんなに驚くとは思わなくて!」
入口でしゃがみ込んでいた美麗は涙目で声をかけてきた人物を睨みあげる。
涙目でしかも上目使い。
一瞬ドキリとしたが、そのときめきはすぐに恐怖に変わる。
『……っ岳人、これアンタがしたの?』
「え、あぁ。ちょっといたずらを……『何してくれんじゃワレェェェェェ!!』ぐぇ!!」
血相を変え、向日の胸倉を掴み、ありったけの力で揺さぶる。
『てんめー死ぬ覚悟出来てんだろーな!?この私にあんな気持ち悪いもの見せやがって!!』
「ご、ごめんなさいィィィ!うぷ……っあ、あの…苦し……」
『黙れチビ!!許さねー!絶対許さねー!!』
美麗はギラリと向日を睨む。
そのオーラの向こうに、般若が見えたのはきっと向日だけじゃない。
「「「………」」」
今までに見た事のない怒りっぷりと、美麗の鬼のような形相。呆然と立ち尽くすしか術はない。
鳳は涙目で日吉は震えながらも小さく「…げ、下剋上だ…」と呟く。宍戸はがたがた震え、忍足は眼鏡がずり落ち、びっくりした顔。冷や汗だらだら。
芥川は見てみぬふりを決め込み狸寝入り。そして餌食となった向日は気絶寸前だった。
反応は様々だが、皆に共通するものは顔が真っ青だということだけ。
『火炙りか磔か切腹か、岳人、どれがいい?選ばせてあげるわ。うふふ。』
ガタガタと震える彼らは光の速さで土下座。許してもらうには、これしかないと悟ったのだ。
「「「「すみませんでした!!!」」」」
関係のない宍戸や忍足達も、美麗の怒りがおさまるまで、ずっとずっと謝り続けた。
土下座するテニス部レギュラー陣の中には跡部も加わっている。プライドなんか気にしてる暇はない。すべては自分の命を守るため。
あの日以来、いたずらは二度としなくなった。
そして、あんな風に美麗を怒らせる事だけは絶対しないと固く誓ったのだった。
to be continued...
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