きのこと一緒
『………ねぇキノコ。』
「違います。日吉です。」
『……ねぇ若。』
「なんですか?」
『どうしてこんな事になったんだろう。』
「先輩のせいですよ。」
『…………ゴメン』
「え?あ、いや、別にいいですよ。」


現在、部室とテニスコート付近の草抜きをしている日吉と美麗。何故草抜きをするハメになったのか……30分前に遡る。



『洗濯めんど。』


マネージャーの仕事のうちの一つである洗濯をするため、汚れたタオルを抱え洗濯機の前にやってきた美麗だが一行にそこを動かず心底めんどくさそうに眉をしかめた。


『洗剤を入れるのすらめんどくさいわ。いいや全部入れちゃお。』


分量を計るのすらめんどくて、手に持っていた洗剤を箱ごと洗濯機に入れようとした時。


「先輩?」と日吉が現れた。怪訝そうに美麗を見つめる日吉に気付くと美麗は首を傾げてみせる。


『若!どうしたの?』
「戻ってくるのが遅いので様子見てこいって頼まれたんです。で?何しようとしてたんですか?」
『…いや…洗剤、入れようと思って……』
「箱ごと?」
『だってめんどくさいんだもん。いいでしょ別に。』
「全っ然よくありませんね。バカですかアナタ。」
『バカじゃないわよ!これでも学年二位なんだから!』

「そんな事より、早くしてください。まだ仕事あるんでしょう。」
『今やりますー!』


そう言い美麗は洗剤を箱ごと入れようとした。が、すぐに日吉に阻止される。


「だからなんで箱ごと入れようとするんですか!?」
『離してよ!キノコの分際で生意気よ!』
「生意気は認めます!でもキノコじゃありません!」


洗剤を持っている美麗の腕を必死に押さえる日吉。しかし美麗も必死で振り払おうと頑張る。


『は・な・し・て・よーー!!』
「い・や・で・す!!」

『〜〜っ!わかった、わかったわ!もうやらないから!』


そんな状態が数分続いたが、日吉が諦める気配を見せないため渋々美麗が折れた。


「…はぁ。」


日吉が安堵の息を溢しながら、手を離す。

美麗はため息をつくと、洗剤を少量洗濯機へ入れようとした。が、洗濯機がある場所が段差だったのをすっかり忘れていたせいで足を滑らせた。


『わっ!!』
「!先輩っ!」


ずるっと滑り、後ろに倒れそうになった美麗を、日吉は間一髪で抱き留める。


『…びっくりしたぁ…ありがと若。』
「いえ…」
『……ん?アレ?』
「どうかしましたか?」
『…洗剤がない。』
「は?」



自分の手元をみて目を瞬く美麗。からっぽな両手には転けそうになる前から持っていた洗剤が箱ごと消えていた。


「……………おい。」


首を傾げる二人の後ろから低い声がする。少し怒気の含んだ、聞き慣れた声。


『「……あ」』


振り向けば、頭から洗剤を被り、綺麗な髪が真っ白になった跡部が睨みながら立っていた。


『…あら景吾。素敵な髪ね。ねぇ若?』
「…そうですね。似合ってますよ。ねぇ先輩。」
「そうかそりゃどーも………っていうとでも思ったか?テメーら罰として草抜きだ!!」


怒りで震える跡部が指さした先は、長年ほったらかしていたせいで草が伸びきっていた部室横とテニスコート付近。


『嫌よ!なんで私が!』
「そうですよ!草抜きなんて嫌です!!」
「グランド100周でもいいんだぜ、アーン?」
『「草抜きして来ます!!」』



そうして今に至り、二人はせっせと草抜きに励んでいた。


『…疲れた。もうやだ!』
「先輩。もう少しですから。」
『やだやだやだァァ!!疲れた帰りたいキノコ食べたいィィ!!』
「ガキかアンタは!それから最後の言葉はおかしいと思います!」
『“疲れた帰りたいキノコ食べたい”は美麗の三原則よ?これ基本よ!知らないの?』
「知りません。そんなバカげた三原則、初めて聞きました。」



子供のように駄々をこねる美麗にため息をつく日吉。


「オイ綺麗になったか?」


そこへ跡部が様子を見にやってきた。大分綺麗になったのを見て満足げに笑う。


「よし、ご苦労だったな。もう終わっていいぜ。」
「…先輩、終わってもいいそうです。」
『景吾の鬼!老け顔!年齢詐「そんなに走りたいのか?」ごめんなさい。』


何はともあれ無事草抜きは終了。現在は部室で日吉と二人で休憩中だ。


『若、お茶どうぞ。』
「あ、ありがとうございます。」


ソファーに座り、冷えたお茶を飲む。


『あー…生き返るわ。』
「…先輩、」
『ん?』
「もうあんな事二度としないで下さいね。」
『…ゴメンね、私のせいで。』
「………別に。じゃあ俺練習に戻ります。」
『あ、うん。若…ありがとね!』
「……」


日吉が無言で部室を出て行く後ろ姿を見つめながら、美麗は一人、笑っていた。
去り際に見えた日吉の耳が赤く色づいていたからなんだか可愛くて。照れ屋な後輩ね、と穏やかな気持ちでまた、お茶を飲む。


少しだけ、日吉との距離が縮まった気がした。


to be continued...


『キノコ!おはよう!』
「違います。日吉です。キノコじゃありません。さりげなく言うのやめて下さい。」
『もうキノコでいいじゃん?』
「よくありません。俺には日吉若という名前があります。ホントやめて下さい。いじめはよくないです。」

『いじめてないわ、愛でてるのよ。』
「そんな愛で方は嫌だ。」

「なんや日吉がロボットに見えるんやけど。」
「…大変だな日吉も。」


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